<高校野球千葉大会:千葉明徳8-0国分>◇19日◇4回戦◇長生の森球場

試合開始前、千葉明徳(千葉)の平川瑛斗内野手(3年)はスタンドを見渡し、兄瑠偉さん(20)の姿を見つけて小さくうなずいた。「明徳のユニホームで活躍している姿を見せる」。2打数無安打も2打席目には犠打を決め、守備もノーエラー。チームは福井玲央捕手(3年)の2本塁打を含む10安打、7回コールドで勝利した。

瑛斗は勝利を目に焼き付けた。「兄が見たかった景色を、僕が代わりにこの目で見る」。たくさんの観客。梅雨の合間にのぞいた青空。チームメートの笑顔。そして、スタンドの瑠偉さんを見てニッコリ笑った。

瑠偉さんは同じ千葉明徳の野球部だった。16年7月16日、練習中の事故で左目を失明した。当時、大好きな兄が苦しむ姿を間近で見ていたのが瑛斗だった。小さいころから父と3人で練習。憧れの存在だった。

「僕、いつバットを振れるの?」

8時間に及ぶ大手術を受け、目覚めて最初の言葉だった。突然野球を奪われた兄。思いは弟に託した。「僕の果たせなかった明徳のレギュラーになる夢を果たして」。瑛斗は一切、手を抜かなかった。「野球ができることは当たり前じゃない」と朝5時から2時間半の練習。帰宅後も父と特訓した。「兄の代わりに僕が明徳でバットを振る」。強い気持ちが支えだった。

父博一さん(49)は「兄の思いを背負っているんでしょう。瑛斗は妥協をしなくなりました」と成長を感じた。試合後、弟の姿に瑠偉さんは「自分のこと以上にうれしい」と話し、瑛斗は「兄の代わりに活躍します」と誓った。2人の笑顔は誰よりも輝いて見えた。【保坂淑子】