鳴門(徳島)の鉄腕が力尽きた。左腕西野知輝(3年)は大会出場49校中唯一、地方大会から1人で投げ抜いてきたが、この日の最終回は右腕竹内勇輝(3年)にマウンドを譲った。

「悔しかったけど、竹内は僕より球も速いですし、信じていました」

この日は8回を被安打13、四死球3の8失点。特に初回は仙台育英の1番中里光貴(3年)に初球を二塁打され、4番小濃塁(3年)に2ランを浴びるなど、全打者にファーストストライクを狙われ、6安打を浴び、一瞬で4点を失った。「調子は悪くなかったけど、球が高く、甘く入った。立て直しが効きませんでした」という。

徳島大会5試合で683球、甲子園は初戦154球、この日の126球。計7試合で963球も投げた。岩手大会では、決勝で大船渡の163キロ右腕佐々木が監督判断から登板を回避し、世間の物議を醸した。真夏の大会を1人で投げきることの是非-。西野はこの日の試合前、記者の質問に答えて「楽しいけど、しんどいです。徳島大会の決勝あたりはきつかった」と苦笑いし、自分の考え方を明かした。

「佐々木君はすごく有望で、将来はプロとかが当然の投手ですからね。僕はやっぱり昨年夏の悔しさがあって、だから今年の夏は1人で投げきりたいと思った。状況とか(いろんなものが)また違いますから(いい、悪いの)どちらとも言えないと思います」。

自分も大学で野球を続けるつもりだから、故障はしたくないが、1年前の後悔を晴らしたい。悔いなく仲間との高校3年間を終えたい。深刻なダメージがなく、投げられる限り、それがチームが勝つための最善の策であるなら、マウンドを守り続けたかった。

途中で1点差に迫った。6点差大逆転まであと1歩だった。「1点差から(自分が)粘れていたら。味方のエラーもあったけど、自分が粘ってカバーできていたら、展開は変わったと思う。自分の力負けです」。体力回復に豚肉がいいと聞き、徳島大会の登板前夜と登板日夜は、母美佳さん(40)に頼んで「冷しゃぶ」を食べ続けた。「こっちに入ってから、そうもいかなかったんですが、最初は食べたくて母に頼みました。それで勝って、験担ぎもあって」。酷暑で1000球近くを投げた左腕は、笑顔で高校野球を終えた。