九段中教校はコールド勝ち寸前から、あわや没収試合のピンチに見舞われた。

12-0の5回2死一塁、千早の7番打者の打球が右翼線に落ちる。懸命に追った岸田淳志外野手(2年)は、打球処理後、うずくまったまま起き上がれなかった。両足をつったからだ。選手は全員で10人だけ。唯一のベンチスタートだった岸田が、この回から右翼の守りに就いていた。もう控え選手は残っていない。「僕がここで倒れたら試合がなくなってしまう。絶対に立とうと思いました」。5分間の治療のかいあり、起き上がった。プレー続行。次打者が空振り三振に倒れ、コールド勝ちが成立した。

ルール上、9人の選手をそろえられなければ、没収試合として相手チームの勝利となる。緊急事態宣言で、年明けは3月までチーム練習ができなかった。ようやく再開できたと思ったら、4月以降、再び全体練習がストップ。全員で動き始めたのは、わずか1カ月前だった。亀田洋斉監督(29)は「練習が限られた中、よくやってくれました。(練習不足で)つるのはあるかな、とは思っていたのですが」と選手をねぎらいつつ、打ち明けた。前日までの雨が上がり、急に気温が上がったことも影響したのかもしれない。

新チーム初勝利だったが、岸田は笑顔を見せなかった。「自分のせいでノーノーをふいにしてしまいました」と申し訳なさそうに話した。藤森瑞生投手(1年)が5回1死まで1人の走者も許さないパーフェクトピッチング。打者14人目で初めて右前にポテンヒットを打たれ、記録は途絶えた。「あの時、ちょっと足がピキッときました」と岸田。前に落ちる打球を捕ろうと動いた際、既に足がつりかけていた。2死からの打球処理で、両足をつってしまった。

もっとも、記録を逃した藤森は「あれはヒット。しょうがないです」とサバサバ。区立の中高一貫校で、中学野球部から知った仲だ。2人とも「チームワークは、どこにも負けていません」と声をそろえた。10人しかいなくても、他にはない強みがある。【古川真弥】