春季大会を制している駿台甲府が、意思疎通への高い意識を持って、攻撃野球を展開している。3回戦は山梨を5回コールドで下したが、バントを使わない野球が浸透している駿台甲府は、選手1人1人が次は自分に何が求められているか、よく理解している。

1回表の攻撃の中に、その浸透ぶりが表れる場面があった。先頭の渡辺蒼海内野手(2年)が内野安打で出塁。無死一塁。2番塩谷遥生外野手(3年)が打席に入った。

初球はボール。ここで塩谷は「ワンボールになったのでランエンドヒットのサインが出るだろうと予想していました」という。同時に一塁走者の渡辺も「バッテリーはストライクが欲しいカウントになったので、ランエンドヒットが出るなと。いいスタートを切って、うまくいけば一、三塁の形にできればと狙っていました」。

2球目を打ってファウル。塩谷は「インコースギリギリでした。渡辺のスタートは普通かなと」。カウント1-1となり、3球目はボール。2-1とバッティングカウントとなり、再びランエンドヒットのサインが出た。塩谷は4球目を打ってファウル。「外角のストレートでした。渡辺のスタートは普通に見えました。2球目も4球目もストライクゾーンでした」。仮に投球がボールなら、塩谷はスイングをやめる。盗塁が成功すれば無死二塁とチャンスが広がり、またそこから展開していく。

ストライクゾーンへの球が2度ファウルになり、この打席でのランエンドヒットは成功しなかったが、塩谷は2-2から左前打で無死一、二塁とチャンスを広げ、その後の3得点への下地はつくった。

この1、2番の攻撃を、5番の和田遙佑内野手(2年)は冷静に見ていた。「1番と2番で形をつくって、あとは3、4、5番でかえすのがうちの形だと思います。先頭打者が出て、カウントによってランエンドヒットのサインが出るだろうと思っていました」。

試合後の但田邦之監督(29)は、この作戦について淡々と説明した。「1回表は、無死一塁から塩谷がヒットで一、二塁にしたのは良かったと思います。しかし、ランエンドヒットでは打ち損じています。しっかりヒットゾーンに運び、無死一、三塁にできていれば、あのケースでは最高の理想的なケースになったということですね」。穏やかな口調で、表情ひとつ変えない。しかし、言葉の端々には妥協を許さない厳しさがうかがえた。

バントを多用しないのではなく、まったくバントをしない。それでいて、打ってかえすためには状況判断と走塁を含めたわずかなチャンスを逃さず、どんどん先の塁を陥れていく。駿台甲府の野球は、長打頼みの打つ野球というよりも、考えるアグレッシブ野球という印象だ。【井上真】