皆さんにエールが届きますように-。第103回全国高校野球選手権大会が10日、開幕した。昨夏はコロナ禍で大会中止。2年ぶりに夏の甲子園が復活した。コロナ対策で簡略化された開会式の冒頭、俳優で歌手の山崎育三郎(35)が大会歌「栄冠は君に輝く」を熱唱し、球児を激励した。選手宣誓では、小松大谷(石川)・木下仁緒(にお)主将(3年)が「人々に夢を追いかけることの素晴らしさを思いだしてもらうため」全力プレーを誓った。エールの輪が甲子園から、広がっていく。

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伸びやかな歌声が、関係者に限られ人もまばらな甲子園に響く。雲はわき、光が外野に並ぶ49代表の若人たちにそそぐ。純白のシャツを着た山崎は「出場する選手の皆さん、そして、今コロナ禍で闘う全ての皆さんへエールを届ける思いで歌いたい」と臨んだ。1フレーズごと、緩やかに。

専大松戸・石井主将が「うますぎて感動っす」と無邪気に喜べば、開幕試合を控えた日大山形のエース斎藤は「第1試合で緊張はありましたが、曲を聴いたことで、うまくほぐれたと思います」と感謝した。選手代表の小松大谷・木下主将は「人々に夢を追いかけることの素晴らしさを思いだしてもらうために、気力・体力を尽くしたプレーで、この夢の甲子園で高校球児の“真(まこと)の姿”を見せることを誓います」と宣誓した。

1年前。センバツの代替で交流試合こそあったが、夏の甲子園は消えた。苦楽を突き抜けさせる先がなくなった。泣き崩れる先輩たちの姿を忘れない。この夏、エールをもらった彼らは、エールを送る番となる。

「真の姿」は随所にあった。4点を追う9回、4連打で食い下がり、最後まで諦めなかった米子東。スーパーキャッチでチームを救った新田のセンター長谷川。日本航空のエース・ヴァデルナは完封勝利を仲間と喜んだ。今この瞬間にかける姿は、中継を通じ日本中に届けられた。

甲子園からの風は、ここにも届く。球場に隣接する甲子園素盞嗚(すさのお)神社の畑中秀敏宮司(66)は「吹奏楽の音を聞くと『ああ、甲子園だな』と思いました」と、しみじみ言った。空襲で焼け、鉄骨が見えたままの球場を見て育った。西宮東高時代には、夏の開会式で大会歌を歌った。宮司になってからは、神事でマウンドにも立った。そして、コロナ禍。「参拝客が少なくて寂しいです」。ただ、こう続けた。「境内にユニホーム姿の選手が入ってくると、やっぱり違います。うれしいです」。球児にエールをもらった。

昨年、NHKで放送されたドラマ「エール」。山崎演じる佐藤久志は「栄冠は君に輝く」を歌うことで、戦争でむしばまれた心を取り戻し、歌手として再生する。ねたみ、そねみ、非難の応酬。負の連鎖が起きかねないこの世界。だからこそ、勝利を追い求める正の姿が染みる。一投一打がエールとなり、世界が再生する力となれ。【古川真弥】