横浜隼人は2点差で負けていた。9回2死。打者は7番打者…そして勝った。ベスト8に進出した。

声の大きな水谷哲也監督(59)の声が小さい。言葉を震わせる。

「もう、全然負けてる雰囲気なかったですね。勇気持って走ってくれました。勇気持ってバット振ってくれました。しっかり走ってくれました。最後まで普通にやってくれました」

1つ1つの語尾がかすれた。7番、8番が連続四球、そのたびにエースの沼井伶穏投手(3年)は口を全開に広げ「よっしゃー!!」と仲間たちと声を張った。

2死一、二塁。宝藤(たからふじ)星太内野手(3年)が代打に立つ。健大高崎(群馬)との練習試合では4番に座り、センバツ優勝投手の佐藤龍月(2年)から右前打も放っている。

ファウル、空振り。連続四球後でも勇気をもって振った。「この時のために毎朝バット振ってきたので。自分が打たないと逆転できないと思っていたので」。3球目が右前打になり、1点差に迫った。

「代打の切り札です。ずっと努力してきたので、うん、神様が…」

水谷監督がたたえた宝藤に、代走として岡本裕希内野手(3年)が送られた。彼へのけん制球が悪送球になり、同点に。エース沼井は声にならない声を上げ、こぶしを突き下ろした。

そして岡本は二塁から三盗を仕掛け、投手の暴投が重なり、一気にホームまでやって来た。

6-4で勝った。水谷監督が“逆転の隼人”と銘打つ通りの、大逆転劇。指揮官はグラウンドを眺める時間と同じくらい、ベンチ内を笑顔で見つめている。

「ベンチは勢いを持って、試合に出てる子は普通に冷静にやる。これが逆転できるチームだと思います。今年は試合に出てない子が本当に盛り上がって、ホームに近いところからみんな一生懸命声掛けて。みんなが自分たちで野球をできているのがすごくうれしいですね」

勇気を持って走って、振って、ボール球を見送って。「勇気をもって。これに尽きます。とにかく失敗OKです。野球なので。注意はしますけど、でも大会はもう発表会なので、失敗OKなんで。どうやってみんなでフォローしていくかだと思います。これが高校野球の面白いところです」。

5回裏、ユニホームを泥だらけにした岩城匠海内野手(3年)がダウアウトで沼井に言った。

「絶対、1点リードで回してやるからな」

最高の形をもって、それはかなわなかった。沼井が投げずに強敵相洋との5回戦を勝ち抜けた。投げさせるつもりは、ほとんどなかった。

「旗、取りに行くので」 水谷監督の涙声は、すっかりいつもの朗らかな声になっていた。【金子真仁】

各地区開催日程、組み合わせなど【高校野球 夏の地方大会2024】特設ページはこちら>>