<センバツ高校野球:花巻東5-2利府>◇1日◇準決勝

 さあ、岩手の球児だけで岩手の歴史を塗り替えるぞ!

 花巻東(岩手)が5-2で利府(宮城)に逆転勝ち。史上初の甲子園準決勝東北勢対決を制し県勢初、東北勢8年ぶりの決勝進出を決めた。先発・菊池雄星(3年)が逆転打など投打で活躍。打線も10安打でエースを援護し「甲子園決勝未到達県」からも脱出する歴史的勝利だ。佐々木洋監督(33)の下、一丸となった地元ナインが、みちのくに初の優勝旗を持ち帰るべく2日、清峰(長崎)との決勝に挑む。

 ナインが、ベンチ前で円陣を組んだ。5回終了時のグラウンド整備中のこと。指揮官の進軍ラッパが鳴った。「絶対に勝ちに行くからな!」。佐々木監督のひと言に、選手たちは大声を上げた。そして迎えた、1点を追う6回表の攻撃。相手の守りのミスや死球などで2死満塁とし、エース菊池の打球が中前で跳ねる。一気に2人が生還し、逆転に成功。8回にも2点を追加して試合を決めた。ついに、岩手県勢悲願の決勝切符をつかんだ。ベンチも一塁側アルプススタンドも、お祭り騒ぎとなった。

 県勢では84年大船渡(ベスト4)を越え、センバツ東北勢としては01年の仙台育英(宮城)以来の決勝進出。若き指揮官の下に集まった生粋の岩手っ子が、紫紺の優勝旗奪取へ王手をかけた。多くの強豪校が県外選手を受け入れる中、花巻東は部員全員が地元岩手出身。黒沢尻北の野球部出身で「岩手の選手でも日本一になれることを証明したい」という、佐々木監督の信念が結実しようとしている。

 菊池には中学時代から、試合を視察するたびに話し掛け熱心にスカウト。155センチで今大会出場選手で最低身の佐藤涼平中堅手(3年)には「お前の一番の長所じゃないか。投手からすれば投げづらい」と勇気づけた。入学当初は反抗的だった横倉怜武一塁手(3年)とは正座で向き合って1時間以上、話し合うなど情熱的な行動で選手の心をつかんできた。

 鵡川(北海道)戦の前夜には相手校の地元名産のシシャモを食べた。今回も、前夜に宮城・利府町の名産ナシを食べようとしたが、入手できなかった。そんなユーモアも絶えないチームは2日、日本一に挑む。「優勝を狙うつもりでやってきた。あとは気持ちの問題」と佐々木監督。菊池も「優勝して、岩手の人たちに元気を与えることが使命だと思う」と話した。岩手の球児が、みちのく高校野球の歴史を変える。【由本裕貴】