<高校野球静岡大会>◇27日◇決勝

 栄冠は常葉学園橘に輝いた。常葉学園菊川を逆転し、5-3で2年連続甲子園出場を決めた。夏の県大会連覇は常葉菊川に続き、史上5校目となる。1点を追う6回裏無死満塁から、準決勝で逆転サヨナラ打を放っている小岱(こぬた)太志内野手(3年)が、右翼線へ2点二塁打を放ち逆転。エース長谷川彦(げん=3年)が4回以降無失点で完投した。全国大会(8月7日開幕)の組み合わせ抽選は同4日に行われる。

 長谷川に真っ先に小岱が抱きついた。マウンドに人がなだれ込み、肩を組み「NO・1ポーズ」を取る。2年連続の甲子園出場だが、昨年とは違う喜びが常葉橘ナインを貫いた。準決勝に続き逆転打を放った小岱は「持ってますねぇ。昨年は行って春は行けず、甲子園に行きたいという気持ちはどこにも負けていなかった。(最後は)彦が(投ゴロを)捕ってアウトにして、うれしくて泣いちゃいました」。姉2人に泣かされ「泣き虫たいちゃん」と呼ばれた昔の顔に戻って、喜んだ。

 苦しい展開を打開したのは「攻め」の姿勢だった。5回表無死一塁から三ゴロの併殺プレーを、打力を買われ今大会初先発の伊藤圭一塁手(3年)が後逸(記録は二塁手の悪送球)。その瞬間「オレを使え」と目に力を込め見つめた背番号3の荒木良太(3年)に、黒沢学監督(33)は押された。その場で起用すると6回裏1死、その荒木が左前打で出塁。相手の失策も呼び込んで無死満塁となると、小岱の打球は一塁手の頭上に高く弾む逆転打となった。

 初回から失点し、追い上げても離された。だが「今日は打ち合いだ。相手以上に取るんだというエネルギーを出せ!!」とハッパを掛ける黒沢監督に、選手は奮起した。小岱に続き5点目の犠飛を打ち上げた早川顕一右翼手(3年)は「今日は死んでもいいという覚悟だった」と振り返った。ベンチを含む全員が、最後まで攻めた。

 今季、昨夏の甲子園の主力が5人残った。それが災いした。「昨年のチームにあった『100%の意欲』が今季はなかった。甲子園を経験している分『こんなもんだ』というのが見え隠れした」(黒沢監督)。大会3週間前の紅白戦で、主力組が初めて控え組に負けた。焦りが生まれ、朝練習の時間を割いて学校の教室に集まった。その日から、守備位置へ全力疾走で就くようになった。キャッチボールの全力投球も始まり、グラブを構えた以外に投げると、怒声が飛び交う厳しい雰囲気に包まれた。

 夜は監督が引き揚げた後、管理人に頼み込み、消灯時間を超えても点灯し、素振りを続けた。いつの間にか全員が午後11時すぎまで残っていた。昨年の庄司隼人(現広島)のような絶対的な選手不在の中で「自分たちだけでやったことが団結につながった」と牛場友哉主将(3年)は「チーム力」を強調した。初出場の昨夏は16強。だが、現3年生は誰も甲子園の土を持ち帰らなかった。もう1度行くから-。その思いは、誰にも邪魔されることはなかった。【今村健人】