阪神ロサリオは決めていた。初球からいく-。トロ(闘牛)の愛称そのままに、どう猛な目で小笠原をにらみつけた。強気な20歳左腕の顔にも緊張が走る。気迫がぶつかり合ったその初球、バットが動いた。

 0-1の6回2死一、三塁。決して甘くない外角低め136キロに襲いかかった。弾丸ライナーと化した打球は小笠原の顔面めがけて一直線。左腕がよけながらグラブを差し出したときにはもう中堅に抜けようとしていた。三塁走者俊介が同点のホームを踏んだ。

 「コースに逆らわず、センター方向にアジャスト(調整)できたよ」。糸原も右前適時打で続き、2-1と逆転に成功。高橋遥の力投にようやく報いた。

 試合前、山脇スコアラーと2人で話し込んだ。これまで、初球を打って出た結果は15打数無安打。早打ちで結果が出ず、今度は逆に消極的になっていた。追い込まれては外角への変化球を振らされる悪循環だった。データを見て、攻撃的な姿勢を思い出した。「今日は野球を楽しもうと思っていたんだ」。試合後に軽い笑みを浮かべた。

 どん底だった。5月9日の巨人戦から7試合で28打数1安打。メジャー時代のツーステップ打法を試したがたった2試合で、前日からノーステップに戻した。4回、15打席ぶりの安打を左翼線に鋭く放つと吹っ切れた。6回に同点打。8回にも「初球」を右前へ。立て続けに3方向に打ち分け、4度目の3安打だ。

 努力は実る。ユニホームを脱いでも兵庫県内の自室でバットを握った。床にテープを貼って「バッターボックス」を作り、振り込んだ。先日、兄モイセス・ファビアン氏が来日。技術的、精神的なサポートを受けている。もがき続ける中で“最強助っ人”も得て、上昇の土台は整っていた。

 「今日はいい日だったと思う。これを続けられるようにしたいね」。開幕から続けた4番を降格して5試合目。闘牛の鼻息が荒くなってきた。【柏原誠】