ニューヒーロー誕生に聖地は大熱狂だ。阪神ドラフト4位ルーキーの島田海吏外野手(22)が、プロ初のサヨナラ打を放ち、9月12日以来の甲子園勝利を虎党に運んだ。延長10回の劇的打でプロ初打点を記録。この日は俊足を生かしてプロ初長打となる三塁打を披露し、プロ初犠打もきっちり成功。チームは連敗を5で止め、本拠地での引き分けを挟んだ連敗も8でストップさせた。
初物ずくめの「島田劇場」に聖地は久々の六甲おろし大合唱だ。ベンチもスタンドもお祭り騒ぎだ。延長10回2死。糸原が申告敬遠で歩かされ、すべての塁が埋まった。「ここで打てばヒーローだな」。カウント1-2と追い込まれてからの4球目。砂田の高く浮いたスライダーを逃さずたたくと、打球は一、二塁間を破った。初めて味わう興奮と歓喜にほおを赤らめたまま、両手を上げてベンチへ向かう。すぐさま駆けだした先輩たちにもみくちゃにされた。
「声援が力になった気がします。どう打とうとか考えている暇はなかったので、不思議な力が出た気がします」
自慢の快足で劇場は幕を開けた。5回にプロ初長打となる右翼線三塁打。昨年、大学日本代表のチームメートだった東のスライダーを捉えた。「(1打席目は三振で)なんとかやり返したい気持ちはあった。しっかり打ち返せたのは良かった」と白い歯を見せた。7回にはプロ初犠打を1球で決め、締めくくりはプロ初というサヨナラ打。チームを9月12日以来となる甲子園での勝利に導いた。
お立ち台では「みなさんも1度、熊本に行って馬刺しを食べてみてください」と高らかに地元をアピール。数日前には熊本がきっかけで、偉大な先輩から金言を授かっていた。9月29日のナゴヤドームでの試合前練習中。同郷の中日荒木にあいさつすると、激励の言葉をかけられた。「まずはしっかりご飯を食べて、体を大きくすることが大事。しっかり野球に集中して頑張って」。ポジションは違えど、俊足と守備が武器の同じスタイル。2000安打も達成した名手からのエールに心は高ぶった。その荒木が現役引退を正式発表した日に、恩返しの大活躍だ。
甲子園での連敗を止めた立役者となり、金本監督から「ああいう場面でルーキーがなかなか力を発揮できるものではない。本当にあの場面でよく打ってくれました」とたたえられた。「毎日が僕にとって勝負。今日のことは今日で終わりなので、また明日同じような活躍ができるように準備していきたいです」。余韻に浸る間もなく、次の戦いに目を向けた。【吉見元太】
◆島田海吏(しまだ・かいり)1996年(平8)2月6日、熊本県生まれ。宇土東小4年から野球を始め、鶴城中では野球部に所属しながら陸上部の大会に出場。後に100メートル9秒98の日本記録を樹立した桐生祥秀を全国大会で破ったという逸話を持つ。九州学院では2年春に甲子園出場(2回戦敗退)。上武大では2年春から正中堅手で全国大会に5度出場。3年春にリーグ戦首位打者。ベストナイン2回。3年夏と4年夏に大学日本代表を経験。17年ドラフト4位で阪神入りし、ルーキーイヤーの今季はウエスタン・リーグでチーム最多の26盗塁を記録した。175センチ、72キロ。右投げ左打ち。