エネルギッシュに駆け抜けた。今季限りで現役引退する日本ハム矢野謙次外野手(38)が、プロ最後の打席で安打を放った。10日、ロッテ24回戦(札幌ドーム)の7回2死一塁、勝負し続けてきた代打で登場。唐川から左前打を放ち、有終の美を飾った。引退セレモニーでは、決めゼリフ「ファイターズ、サイコー!」と絶叫した。

最後の一振りは、生きざまだった。1点リードの7回2死一塁。持ち場であり続けた代打で、矢野は打席に立った。ロッテ唐川の7球目。集大成の思いを込めた。打球は三遊間を破り、地をはうように左前へ転がった。最後の安打。涙はない。三塁側ベンチで総立ちで喜ぶ後輩へ、力強くうなずいた。「16年間でサイコーな仲間に会えて、一緒に野球が出来て本当に幸せ者でした」。

矢野らしく、葛藤した。今季開幕前。迫る潮時に、心を決めた。「今年は、自分のために野球をやる」。巨人、日本ハムの仲間以外からも集めてきた人望。多方面からの助言に、丁寧に応えてきた。自身は安打が出ず、苦しんでいたときも。「オレは選手。コーチや監督じゃない」。一線を引き、今年は自分に専念するはずだった。

シーズン佳境に入り、物憂げに悟った。「自分がうまくなることより、下の子たちがうまくなることの方が、うれしくなってきているんだよね」。慢性的に痛む右膝が、思うような野球を出来なくしていた。一方で助言に応え、伸びていく若い選手たち。日本一の16年。西川の一塁ヘッドスライディングには、涙腺が緩んだチーム最年長。去り際を実感した。

だから努力や礼儀を怠る人間には、疑問を投げかけたこともあった。「大事なところで、人が出る」。妥協や甘えを嫌い、全身で戦い続けた。引退セレモニーのあいさつを終え、マイクを握った。「最後に魂を込めて、叫ばせていただきます。…ファイターズ、サイコー!」。お立ち台で、日本ハムファンを引き付けた決めゼリフ。代打で16年。サイコーに熱いプロ人生を、全力で生きた。【田中彩友美】