マリナーズの会長付特別補佐兼インストラクターを務めるイチロー氏(46)が22日、故郷の愛知県豊山町で「イチロー杯争奪学童軟式野球大会」の閉会式に出席した。大会は同氏がオリックス在籍中の96年に約90チームで始まり、第24回となる今回は180チームが参加。現役引退を機に今年が最後の大会となった。

イチロー氏による子どもたちに向けた「最後のスピーチ」は以下の通り。

   ◇   ◇   ◇

みなさん、こんにちは。イチローです。毎年ここで、その年に、そのシーズンで感じたことをみんなの前でお伝えをしてきんですけども、今回のこれは最後のイチロー杯でのみんなへのメッセージとなります。長い間、支えていただいた皆さんに感謝申し上げます。ありがとうございました。そして最後のこの大会で、ここにいる3チームのみんな、おめでとう。

 

えーとね。僕はこの春、現役を引退しました。そのときにイチロー杯のことが真っ先に頭に浮かんで、これからどうしようか考えました。これまで現役としてみんなにシーズンに感じたことをメッセージとして話してきたけど、それができなくなったということで、この決断に至りました。今年は今年のシーズンというよりも、日本で9年間、アメリカで19年間、プロ野球選手として過ごしてきて、何かみんなに最後に伝えられないかというふうに考えて、いまここに来ました。

 

2点あります。まず、みんなが野球を続けていくかどうか、いくつまで野球をやりきれるか分からないけど、僕は先日、学生野球資格回復という研修を受けてきまして、いろいろ勉強会があったのだけれども、この合否については2月に明らかになります。まだ研修を受けたというだけで、結果は分からない。もしそれが可能になるのでなれば、ひょっとしたらみんなと別の場所で、みんなとこの大会に参加してくれたみんなとひょっとしたら違う場所で会うことができるかもしれない。なるべく、みんなにこれから野球を続けてほしいと思っています。

 

そのときに(みんなは)いま学校の先生からいっぱい教えてもらっていると思うけども、教える側の立場の人間、先生というのがなかなか難しいらしいようです。先生よりも生徒の方が力関係で強くなるというか、いろいろな状況があると聞いて、このことに僕は今、心配しているというか、どうやって教育していくのかということを考えることがあります。

 

でも時代の流れでこうなってしまっているので、みんなに伝えたいのは、先生たちから教えてもらう大切なことはいっぱいある。みんなが謙虚な気持ちで先生を尊敬して、先生の言うことを聞いてもらいたいのだけれど、なかなか厳しく教育することは難しいみたいなんですね。中学、高校、大学。社会人になる前に経験する大切な時間。そこで自分自身を自分で鍛えてほしい、というふうに考えています。厳しく教えるのに難しい時代に誰が教育するのか。最終的には自分で自分のことを教育しなければならない時代に入ってきたと思う。僕は野球選手になって、小学生、中学生、高校生のときに、なかなかそういうふうには思えなかった。厳しい先生がいたので。そんなふうには思わなかった。いまのみんなが生きている時代はそれはすごく大切なことであることを覚えてほしい。お父さん、お母さん含めて覚えてほしい。

 

もう1点。いま、いろんなことが情報としてすぐ頭に入れられる時代。すぐ、携帯でスマホで調べればいろんなことが分かる時代になった。世界が小さくなっているように思えるけど、僕は28(歳)の年にアメリカに渡って大リーグに挑戦したけど、外に出て初めて分かること、調べれば分かることでも、行ってみて初めて分かることはたくさんある。野球の世界という狭い世界だったけど、外に出て、気づくこと、勉強することはいっぱいありました。それを知識として持つのではなく、体験して感じてほしい。自分の解釈をして、自分が育った日本という国は素晴らしいっていうことを外に出て、すごく感じると思う。そういう経験を将来、みんなにしてほしいと思う。いままであった当たり前のことは決して当たり前じゃない。価値観を変わるような出来事をみんなに体験してほしいと思う。

 

いつものシーズンのメッセージとは違うけど、28年のプロ野球生活を終えて僕が強く感じていること。みんなに覚えていってほしいと思います。