阪急で通算284勝、09年WBC世界一投手コーチだった元中日監督・山田久志氏(71=日刊スポーツ評論家)が18日、阪神藤浪晋太郎投手(25)をチェックした。技術、精神面での進歩を認めながら、今後の指導法、進むべき方向性について提言した。【取材・構成=寺尾博和編集委員】

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藤浪の投球を真後ろからじっくりとみたが、改めて“不思議な投手”であることを実感した。同じ軌道を描くボールが、その途中で引っ掛かったり、シュート回転して変化する。わたしが不思議というのは、それが1球ごとに軌道を変えるからだった。

わたしは藤浪に限らずピッチャーをみる際、ボールが指先を離れる瞬間のタイミングが合っているかどうかを、まずチェックすることをミソにしている。藤浪のボールがばらつくのは、バックスイングから右手を上げてくるタイミングがずれるからだろう。

最終的にフォームの問題に突き当たるのだが、せっかく自ら考え抜いたフォームだろうから、ここで指摘するのはやめておく。ただ安心したことが2つあった。まず表情が明るかったことだ。ブルペンで投げる姿から一生懸命に取り組んでいるのが感じられて、ホッとした。

もう1点は、本人がこのストレートをなんとか克服しなければと思いながら投げていることを察することができたこと。現状の藤浪には間違った取り組みではない。だから投球後、「今の考え方でいいんじゃないか」と察知したことを一言だけ伝えさせてもらった。

ピッチャーに「困ったときはアウトロー」と指導する人もいる。でもその教えは藤浪には当てはまらない。元々が内外角に投げ分けるタイプではない。だから外寄り、内寄りをめがけながら、アバウトに投げることができれば、1つの壁を越えたことになるのだろう。

あまたの投手を預かってきたが、本来は「質の高いボールを増やす」という考えで投げ込むものだ。だが逆に藤浪の場合は「引っ掛け、抜け球を減らす」などと悪いイメージを消すような教えが効果的ではないだろうか。わたしがみた限りは少しつかみかけている印象をもった。