鳥谷敬のいない阪神のキャンプは、もう3週間が過ぎた。かつてチーム宿舎だった、沖縄・恩納村のホテルでこの稿を書いている。ビーチに目をやると、彼がプロ1年目の04年、早朝散歩で歩いた小道が見える。黄金ルーキーと騒がれ、午前7時から多くの記者に囲まれ、矢継ぎ早に質問が飛ぶ。全盛期に「あれだけは本当、勘弁してほしかった」と苦笑いで思い出した。

すさまじい練習量だった。午前5時過ぎから宿舎内でトレーニング。通常メニューを終えて球場を後にしても、人知れず、浦添市内のジムに通った。遊撃手の667試合連続フルイニング出場はプロ野球記録。猛練習が「鉄人」を支えた。先日、高知・安芸でも「もう、トリさんみたいに朝からやる選手はいないんですかね」と話す球団関係者がいた。不世出のプロフェッショナルなのだ。

【146試合出場 打率2割7分8厘 159安打 9本塁打 52打点】

鳥谷の2年目、24歳シーズンの成績である。この数字をチェックしていた若手がいる。プロ2年目、25歳の木浪聖也だ。「ちょっと見たくらいですけどね」と言いつつ“ライバル意識”を隠そうともしない。

「鳥谷さんみたいになりたい。それ以上になりたいと思っています。本当に超えられればいいなと」

新人だった昨季はおもに遊撃で113試合に出場して打率2割6分2厘、95安打だった。ひと冬を越え、打撃は力強さ、確実性が増した。今季初実戦の2月8日中日戦でアーチ。レギュラー奪取に向け、7戦を打率3割3分3厘で滑り出した。地面にへばりつく下半身の強さが目につく。「重心が浮かないように、地面の力を伝える意味でドッシリするようにしています。『当てないように』とね。しっかり振るように意識しています」とうなずいた。

同じショートで鳥谷の背中を追ったのは、わずか1年だが、濃密だった。「教えてもらったこともありましたし、見て学ぶこともありました」。一流の言動に触れた。2年目の春季キャンプ。木浪は指示されるでもなく、自ら課した。読谷村の宿舎の室内練習場で、午前5時半から打撃練習を行う。誰もいない静かな空間で、1人で動きだす。思いの強さがにじむ日課だろう。「誰かに認められるためにやっているわけじゃない。自分のためにやっている。当たり前」と話した。

理由は明快だ。「鳥谷さんが朝からやっているということは、それ以上やらなきゃいけないと思って、やるようにしました。まだまだですけどね」。2年目鳥谷に挑む、木浪の覚悟がある。歳月を超えて、いいライバルがいる。(敬称略)