亡くなったダチョウ倶楽部の上島竜兵さんは、野球ファンにも笑いを提供してくれた。

横浜スタジアムの始球式は毎年の常連。投げて終わりにとどまらず、縦横無尽にグラウンドで暴れた。スレスレで一線を保ちながら、人々の心をほぐす。興行とエンターテインメントの本質を理解していた。

当時評論家だったDeNA三浦監督に聞いた。「試合に影響ないんですか?」

「試合は試合、あるわけないじゃん! 球場に来てくれたお客さんを笑顔にしてくれる。最高だよね。DeNAしかできない始球式なんじゃないかな」

上島さんに乗っからせてもらい、DeNA勝利のハイライト原稿を書いたことも。だれひとり傷つけない笑いが大好きでした。ご冥福をお祈りします。

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<DeNA4-2巨人>◇2017年4月6日◇横浜

度胸満点のチュ~が効いた!? 同点の7回1死一、二塁。試合前のセレモニーで、ダチョウ倶楽部の上島竜兵にたっぷり唇を奪われたDeNAのドラフト9位、佐野恵太内野手(22)が乾いた唇をなめた。

巨人のドラ3谷岡がマウンドに上がると、ラミレス監督は「選球眼がある。彼の方がいいと感じた」と、代打田中浩の代打に佐野を送り込んだ。

始球式で打席に立ち“ケンカからの…キス”という超・大役を見事に果たしていた。監督の見立て通り“ヤ~!”と力任せにはいかない。追い込まれてから“くるりんぱ”ともいかない。フォークを見極め四球を選び満塁とし、梶谷にお膳立てした。

筒香がWBCで抜けている間、主将を務めた強打の2番。熱湯…ならぬ「スタジアムの熱量が、どんどん熱くなっている」。ダチョウ倶楽部がこれでもかと温めてくれた空気を感じつつ「どうする?」と冷静に考えた。「割り切って絞る。調子はあまり。直球で来る」と頭を整理した。“聞いてないよ~”ならぬ読み切りと割り切りに裏打ちされた真っすぐ一本待ち。決勝打が中前ではねた。

このチームに暗さは似合わない。2カード連続で負け越していたが沈みがちになる…訳がない。球界広しといえハマスタでしか許されないであろう、リミッターを完全に外した演出。日本が誇る伝統芸能を味方に、日本の伝統球団を力強く押し切った。

「うれしい! ゴウ(筒香)がロッカーでもみんなを鼓舞してくれる。見習わないと」と梶谷。「ビッグスマイルだ! 正しい笑顔ができる! 理想的な勝ち方だ」と会見場に現れたラミレス監督は「100%。完璧だった」と、上島竜兵に続き、なぜか高城とまでもキスをした佐野の度胸に感嘆。ファンと一緒に底抜けに明るく-。DeNAにしかできない方法論で連敗を3で止め、今季本拠地初勝利だ。【宮下敬至】