師弟の集大成を見逃すな。侍ジャパンは16日にWBC4強入りをかけ、イタリアと準々決勝を戦う。15日に東京ドームで前日練習を終えた栗山英樹監督(61)は、先発の大谷翔平投手(28)を打者としても起用すると明言した。大谷を日本ハム入団時代から知る指揮官は、周囲の懐疑的な目にも負けず、2人で二刀流の道を歩んできた。日本のファンの前でプレーを見せるのは、当面はこの一戦が最後になる。勝って、一緒に米国の地を踏む。

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負けたら終わりの戦いが始まる。その初戦。先発を託す投手を問われた指揮官は、やや間を置いてから、一気に語った。

栗山監督 えーと、まあ、ここから違う戦いが本当に始まるだろうなと思っていきます。明日の大切な試合、大谷翔平でいきます。

投打の二刀流で出場か。そう問われると、よどみなく言った。

栗山監督 それが彼のスタイルなのでね。もちろん。最終的には明日、体の状態は確認しますけども、大谷翔平らしくやってくれると思ってます。

大谷翔平らしく。それこそが、2人で歩んできた道だった。花巻東(岩手)3年秋、1度は直接メジャー挑戦に絞った大谷だが、ドラフトで指名された日本ハムに二刀流育成プランを提示された。揺れ動いた末、12年12月9日に入団を表明。栗山監督からは「誰にも歩いたことのない道を歩いてほしい」と言われた。

まさに1歩1歩、「エース兼4番」の二刀流を作り上げていった。将来のメジャー挑戦を見据え、栗山監督は「ケガをさせない」をテーマに定めた。登板前後は野手での出場を控えるなど、細心の注意を払いながらだった。誰も歩んだことがない道。コミュニケーションは欠かせなかった。「どこまで追い込んだら大丈夫なのか。試してみてケガしたら終わり。本人と、いろいろ話しながら、自分も試行錯誤だった」。

その結果は、日本の5シーズンで42勝&48本塁打の数字が示す。成功の背景には大谷自身の特性があると見ている。「行きたいところに対して、今、自分がいる位置が分かってると思う。もっと自分は良くなる、進化の過程だからと。これでダメなら、これをやってみなきゃと、試行錯誤をドンドンやっていく感じ」。

メジャーでもそうだ。大谷は21年シーズン当初、エンゼルス・マドン監督(当時)に練習過多を指摘された。以来、練習の虫がグラウンドでのフリー打撃を控えている。同年、9勝&46本塁打でMVPに輝いた。

歩みは終わらない。ただ、栗山監督の下で、日本のファンの前で二刀流を披露する機会は最後となる可能性が高い。

大谷 勝って次の勝負に進んで行くというのが、僕らも一番うれしいですし、ファンの人たちも望んでることだと思う。

栗山監督 あれだけのことができるって、子どもたちにね。自分の夢は、やるか、やらないかだけなんだ。そういう覚悟、夢を(子どもたちに)持ってもらえたら、すごくうれしい。

師弟で演出する二刀流の集大成。勝利の瞬間をファンと分かち合い、次の道へと歩みだす。【古川真弥】