角界を彩った小兵力士がまた1人、土俵を去った。幕内在位6場所、十両在位22場所の元磋牙司の磯部洋之氏(39=入間川)は11日に引退を発表。7番相撲まで三段目の優勝争いに絡んだ7月の名古屋場所が、現役最後の場所となった。このほど日刊スポーツの電話取材に応じ「(気持ちは)切り替わってますよ」と、心境を爽やかに語った。すでに故郷静岡に戻っており、第2の人生に向けて準備を進めている。

アマチュア時代は静岡・沼津学園高(現飛龍高)2年時に高校横綱に輝いた。東洋大に進学し、第2新弟子検査をへて04年春場所が初土俵。166センチと小柄ながら、気迫あふれる押し相撲で土俵を沸かせた。

関取として土俵に立ったのは、結果的に14年春場所が最後となった。引退の意思を固めたのは昨年1月の初場所後。西幕下14枚目で関取に復帰に向けて「ラストチャンス」と臨んだが、2勝5敗と負け越し、気持ちに区切りがついた。

次のステージに目を向けた直後に、新型コロナウイルス感染拡大により社会状況が不透明になった。「コロナの状況が分からず、いきなり相撲を辞めるわけにもいかなかった。それと好きな相撲ももう少し続けたいと、2つの理由で(今年の名古屋場所まで)続けた」。

引退の意思を固めながら、1年半と続けた現役生活は決して無駄な時間ではなかったという。「知らない自分を発見できた。いろんな人を見てきて『引退を決めてからもよく稽古できるな』と思っていたが、自分がその立場になっても相撲と向き合えていた。現役としての“死”が見えている状況でも努力できるんだと。ここまで(現役を)続けていたので相撲は好きだと思っていたが、気力の持続、自分の中での相撲に対する志が分かった」。

長い力士人生で真っ先に思い浮かぶのはプロ入り後よりも、アマチュア時代に歩んだ父明さんとの二人三脚だという。「小学校4年生から相撲を始めて、体重は30キロしかなかったが、父親が食事も稽古も協力してくれた。父親も相撲を知らない中で、テレビで必死に研究してくれたり力になってくれた」。明さんは昨年4月に71歳でこの世を去った。「すでに(引退の)意向は伝えていた。6場所しか幕内にいれなかった自分が悔しいけど、あのとき(父と歩んだ幼少期)があるからこそ、ここまで土俵に立てたと思う」と力強く語った。

断髪式は未定。「こんな状況なので(コロナの感染拡大が)落ち着いてから。けじめというか、皆さんにお世話になったので最後はやりたい」。アマチュア相撲の指導にも興味を示しつつ、今後は地元で仕事を探す。「現役生活に後悔はないわけじゃないが、それを次の人生に生かしていきたい。後悔も含めて相撲をやってきて良かったと思う。(今後の進路は)焦らずに探します」。プロとしては17年、相撲を始めて約30年。培ってきたものが、新たな人生の糧になる。【佐藤礼征】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)