どんな好きなことも仕事にすると、いつの日か嫌いになってしまう-。そんな俗説もある中で、先場所史上最年長の三段目優勝を飾った37歳北はり磨(山響)は相撲に対する愛が深まっている。「毎日好きが増してます」と自他共に認める“超相撲人間”だ。

九州場所2日目、朝白龍(奥)を突き落としで破る北はり磨
九州場所2日目、朝白龍(奥)を突き落としで破る北はり磨

大きく番付を上げて東幕下11枚目として臨む今場所。2日目の一番相撲で朝白龍(高砂)を突き落としで下した。「立ち合いもうまくいき、いつも通りいけました」と狙い通りの攻めができたと喜んだ。

中卒たたき上げで02年春場所が初土俵。元横綱稀勢の里、元大関豪栄道ら「花のロクイチ組」(昭和61年度生まれの関取の総称)の1人だ。同世代が次々と引退する中でも、今や22年目のベテランとして現役バリバリ。本人はいまだ限界を感じておらず、逆に伸びしろすら感じている。「37歳と書かれると年取ったなあと思いますけど、体は全然動くんですよ」と笑った。

「相撲人間なんです」と胸を張る北はり磨(撮影・平山連)
「相撲人間なんです」と胸を張る北はり磨(撮影・平山連)

稽古場をのぞくと、体の動かし方は独特そのもの。ヨガをするようなポーズから周囲を動き回って汗をかいたり、「土俵をお腹でぐっと押すイメージ」とすり足をしたり。基礎運動の一つとっても工夫の跡が見える。キャリアを重ね、自己流の調整方法に行き着いたのだろう。まるで探求者のようだ。

九州場所に向けて、稽古に打ち込む北はり磨(撮影・平山連)
九州場所に向けて、稽古に打ち込む北はり磨(撮影・平山連)

同世代も大きな刺激を受け、同じ兵庫出身で同じ道場で腕を磨いた平幕の妙義龍からは「素晴らしい以外のなにものでもない」とたたえられていた。師匠の山響親方(元前頭巌雄)からも「稽古もトレーニングも治療も生活の今でも全てを相撲にささげている」と感心された。

勝負の世界に身を投じ、

今も好きな相撲を好きなままでいられる幸せ。知りあいの理学療法士や医師らのアドバイスも、相撲に生きるかもしれないと思えば、積極的に受け入れる。もちろん厳しい世界とは理解していても、「勝つためにどうしたら良いのか考えるのって楽しくないですか」と前向き。好きなままでいられる理由を垣間見た気がした。

九州場所に向けて、稽古に打ち込む北はり磨(撮影・平山連)
九州場所に向けて、稽古に打ち込む北はり磨(撮影・平山連)

16年名古屋で初土俵から所要85場所で新入幕。1場所限りで陥落後は首の痛みに悩まされて低迷。先場所は08年初場所以来の三段目まで番付を下げたが、37歳2カ月にして優勝した。勢いそのままに白星発進した今場所は「一番、一番全部勝つつもりでやっていきたい」と頼もしいばかり。

見据える先は、1場所限りで陥落した幕内へ返り咲くこと。「目指しているところがあると面白いんですよ」と向上心は尽きない。飾り気のない言葉を口にする37歳の姿がひときわ格好良くて、元気づけられる。【平山連】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)

◆北はり磨(きたはりま) 本名・嶋田聖也。1986年(昭61)7月28日、兵庫・たつの市生まれ。もともと柔道をしていたが、わんぱく相撲大会で全国大会に進んだことを機に小4で相撲に転向。広畑少年相撲教室に通い始め、同級生には後の妙義龍がいた。中学卒業後に北の湖部屋へ入門し、02年春場所で初土俵。12年初場所で新十両、16年名古屋場所で新入幕。181センチ、130キロ。得意は突き、押し。