WBA世界ミドル級王者の村田諒太(33=帝拳)が初防衛に成功した。KO率8割を誇った同級8位スティーブン・バトラー(24=カナダ)の挑戦を受け、5回2分45秒、TKO勝ち。

右3連打から最後は左フックでアゴを打ち抜き、レフェリーストップ勝利し、19年を締めくくった。契約を結ぶ米プロモート大手トップランク社のボブ・アラムCEOは、日本で他団体王者のビッグネームと王座統一戦を組む意向も示した。

   ◇   ◇   ◇

今の村田は家族の存在が、すべての原動力になっている。家族にも大きな勝利を届けることができた。

バトラー戦前、長男晴道くん、長女佳織ちゃんがインフルエンザに感染した影響で、5週間も家族と離れてホテル生活を続けた。愛娘には、村田自らが輪郭を描いた特製の塗り絵を送り「頑張ってね」と書かれた手紙で激励された。8歳の息子には、自身の趣味でもある読書を勧め「こども六法」などの本を贈った。村田は「子供に『横断歩道で信号無視をしたら捕まるの』と聞かれたので、子供が分かる法律の本はどうかなと考えて選びました。子供に読めと言いつつ、贈った本を読んでみて、自分で気づくことがあります」。

村田のスマートフォンには、晴道くんにプレゼントした漫画「君たちはどう生きるか」の1ページが写真で残されている。その中に「王位を失った国王でなかったら、誰が王位にいないことを悲しむものがあろう」との言葉がある。昨年10月、村田はブラントに敗れ、1度は王座から陥落。その後悔は王者だけが味わえる苦痛だと気づかされた。悔恨の思いを感じるのは自らの過ちを認め、気づいているからこそ。あらためて前向きにとらえるきっかけにもなった。

「家族の存在があるから、気づかされることが本当に多いですね。自分を俯瞰(ふかん)し、大人になれていると思う」。日本人ボクサーで到達したことのない中量級でのビッグマッチも実現しそうな20年。12年ロンドン五輪金メダリストが、家族を支えに五輪イヤーに集大成をみせることになる。【藤中栄二】