マサヒロ・タナカ。ショウヘイ・オオタニ。いずれも米国マットで使われるプロレス技だ。WWEのNXTクルーザー級王者KUSHIDA(37)は米国で活躍の日本人メジャーリーガーの名前を技に持つ。名付けられた経緯は偶然だが、KUSHIDAがWWE加入後も技名を変えずに使い続ける理由がある。「WWEの世界」第3回は米国で活躍する日本アスリートの名前を技名にするWWE現役王者の思いを紹介する。【取材・構成=藤中栄二】

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野球投手のように大きく振りかぶる投球フォームから右ストレートで対戦相手の顔面を打ち抜くマサヒロ・タナカ。KUSHIDAがWWEマットで使用する代表的な得意技の1つだ。NXTクルーザー級王座挑戦時にも使用し、王座獲得に結びつけた。MLBヤンキースで活躍し、今季から楽天に復帰した田中将大に由来する。初めて新技として披露したのは15年5月、ROHと新日本プロレス合同の北米(米国、カナダ)ツアーだった。

このツアーでKUSHIDAが新技として右ナックルパート(パンチ)という“反則技”で局面を打開し続けると、会場に集結した米ファンから大きなどよめきが起こったという。会場の盛り上がりぶりに当時、試合中継で解説していた元プロレスラー、スティーブ・コリノ氏(47)に「マサヒロ・タナカだ」と命名された。KUSHIDAは「彼(コリノ氏)がヤンキースのファンで、自分の顔が田中選手に似ているということで解説の時、マサヒロ・タナカと言ってしまってからですね。そのまま技名として使っています」と振り返る。

日本マットのゼロワンでも活躍し、ROHテレビ解説者を経て、現在はWWEのNXTプロデューサーを務めるコリノ氏が名付け親とは運命的でもある。その後、米国で田中本人と対面したものの、KUSHIDAは「ご本人に『マサヒロ・タナカを使っています』とは言えなかったですね」と苦笑いを浮かべた。

ショウヘイ・オオタニ(打撃フォーム式ダブルスレッジハンマー)は18年5月、新日本プロレス滋賀大会のタッグ戦。対戦相手だった田口隆祐のマサヒロ・タナカ対抗技を返す形で誕生した。往年の名投手「ヒサシ・ヤマダ(山田久志)」「ミツオ・スミ(角盈男)」の技名がついた田口のアンダースローから繰り出されるパンチに対し、KUSHIDAは打者がバットを振り抜くようにダブルスレッジハンマーで返した。もちろんMLBエンゼルスで二刀流を貫く大谷翔平が由来で「自分がパンチを返したら、新日本プロレスのサイトにその技名リポートに書いてありましたね」と説明しつつも、本人は気に入っているという。

本来ならWWE入りと同時に技名を変更しても良いものだが、KUSHIDAはあえて使い続ける。それは田中、大谷のように、プロレス界で日米の懸け橋になりたいという願いがある。「チームジャパンとして敬意を表して使い続けます」。もちろん今後も新技に米国で活躍する日本人アスリートを技名にするプランが胸にある。

「ヒデキ・マツヤマ(松山英樹)、ルイ・ハチムラ(八村塁)、ナオミ・オオサカ(大坂なおみ)は考えています。米国で活躍する日本人選手名を技名につけるWWEスーパースターとして、日米で少しでも目にとまってもらえたらありがたいですから」

日本人アスリートの名前が技名として飛び出すWWEの実況も、日本のファンにとっては身近に感じられる。世界中にファンを持つWWEで、王者KUSHIDAが「日本人ブランド」をアピールしている。