ファン待望の最強マッチがいよいよ目前に迫ってきた。RISE世界フェザー級王者・那須川天心(23)が19日、東京ドームで開催される立ち技格闘技のビッグイベント「ザ・マッチ2022」で、K-1の3階級制覇王者で現スーパーフェザー級王者・武尊(30)と対戦する。46戦無敗の「神童」を8年間指導してきたRISE伊藤隆代表(51)が、その強さの秘密を語った。

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伊藤氏が初めて見たのは、自身が運営するTARGETジムへ出稽古にやってきた中学生の那須川だった。元WMAF世界スーパーウエルター級王者で、03年にRISEを旗揚げした日本のキック界の第一人者は「この子は(トップに)いくなと思った」と直感した。那須川は5歳で極真空手を始め、小5でジュニア世界大会を制覇。12歳でキックに転向した後も、優秀な成績を収めていた。「距離をつくる能力」にたけていたが、注目したのはそこだけではなかった。「この舞台で絶対に成功する」という強い覚悟だった。

TARGETのプロ練習は午後1時30分から。その時間に合わせるため、那須川は午前中で授業が終わる4年制の高校を選んだ。「技術と覚悟、全部そろっている。だから、どうやって持っていこうかなという思いでした。僕も腹をくくって、こいつをスーパースターにしなければいけないという責任感がありました」。

14年7月、15歳のプロデビュー戦の相手はランカーの有松朝だった。「まだ早いんじゃないか」。そんな周囲の批判も多かったが、「間違いはない」と確信していた。期待通り、1回KO勝利の衝撃デビューを果たすと、6戦目には村越優汰を2回TKOで退け、バンタム級王座を獲得。その後も目覚ましい活躍を見せ、一気に団体の頂点へと駆け上がった。

いつしか「神童」と称されるようになったが、伊藤氏は首をひねる。「天才というのなら努力の天才です。でも天心は自分で努力をしていると言わないでしょ? だから天才と思われるんですよ」。46戦無敗の伝説の裏には「今まで見てきた中でトップですね」と即答する「努力」という裏付けがあった。

小、中学生時代は学校から直帰。友達とも遊ばずに父、弘幸さんと二人三脚で汗を流した。ジムに入門してからも、習ったメニューを帰宅後に反復練習。「ある意味で巨人の星の親子みたいな感じです。できるまでやらせていました。親子ともにすごい」と振り返る。練習での集中力もぴか一だ。立ち技格闘技の試合は長くて15分程度。1日2~3部、1回3時間の練習に「試合と同じような気持ちを持って、全力で取り組める」。それを幼い頃から、1度も手を抜くことなく続けてきた。

「団体を背負え」「キックボクシングを背負え」「格闘技=那須川天心になれ」。階段を上るたびに、新たな目標を課してきた。そして今度は「唯一無二になれ」と期待する。この試合を最後に、ボクシング転向を表明している那須川。最強と呼ばれる者同士の戦いを制すれば、その境地も見えてくる。「もちろん勝たせるように仕上げているし、勝ちます」と断言。子どものような存在であり、ともに業界を盛り上げてきた仲間。8年間の集大成をぶつける。【勝部晃多】

▼那須川-武尊戦が全ラウンド公開採点になることが15日、発表された。特別キックボクシングルールで3分3回延長1回、スリーノックダウン制、ジャッジ5人制が敷かれる。5人中3人以上が優勢と判定した選手が勝ち、ジャッジは判定基準に基づき、各ラウンド10点法で採点。延長ラウンドの採点は、延長のみの内容で各ジャッジが必ず優劣をつけるマスト評価をつける。また、つかみは攻撃が伴う瞬間的なもののみ有効。相手の蹴りをつかんだ際は瞬間的にキック、ひざ攻撃、パンチのいずれか1発のみ有効。相手の頭部をつかんだ際、瞬間的にひざ打撃が1発のみ有効となる。