プレーバック日刊スポーツ! 過去の2月1日付紙面を振り返ります。2013年の終面(東京版)は、大鵬さんの葬儀・告別式の記事でした。

◇ ◇ ◇

 大相撲史上最多32回の優勝を誇る元横綱大鵬の納谷幸喜さん(享年72)が、国民栄誉賞を受賞する見通しとなった。政府は1月31日、同賞授与を検討していることを明かした。この日、大鵬さんの葬儀・告別式は東京都青山葬儀所で営まれ、約1500人が死を悼んだ。国民に愛された大横綱らしく、ゆかりの地では多くの人々に見送られた。

 夕刻、大鵬さんの親族は都内のホテルで会食中に吉報を聞いた。政府が、国民栄誉賞授与を検討-。芳子夫人(65)は「もしいただけるなら、うれしいです。親方(大鵬さん)もニコッとしただろうと思います」と慎重に話した。現役時代に同賞はなく、角界では千代の富士に続いて2人目。国民に愛された英雄にふさわしい受賞になる。

 葬儀・告別式には、角界史上最多の1500人が集まった。女優黒柳徹子と横綱白鵬が弔辞を読んだ。式の最後には、最愛の妻があいさつした。

 芳子夫人 引退してから36年間は、病気との闘いでした。リハビリをしている時も、強い姿を見せてくれました。最後まで横綱として、立派に闘い抜きました。お父さん、お疲れさまでした。ありがとう。天国から、力士や孫たちにも時々気合を入れてあげてくださいね。

 葬儀所を後にする時、思い出の一番が44年ぶりによみがえった。30回目の優勝を果たした69年夏場所千秋楽、柏戸戦の実況が流された。続いて、呼び出し吾郎が拍子木を打つ。霊きゅう車のクラクションが鳴ると「大鵬!」「ありがとう!」の声が、すすり泣きに交じって飛び交った。

 火葬される町屋斎場までの道中は、思い出の地をめぐった。入退院を繰り返した慶応大学病院には、医師や看護師ら約40人が待っていた。両国国技館では、協会理事のほか300人のファンに見送られた。現役時代をすごした二所ノ関部屋では、初場所限りで引退した3人の姿も。大嶽部屋の前にもファンが集まった。なじみの理髪店があるロイヤルパークホテル、行きつけだった秋葉原の家電店、広瀬無線にも立ち寄った。

 日本の高度成長期、国民に勇気と希望を与え、67年(昭42)の結婚後も慈善活動に力を注いだ。日本赤十字社に寄贈した血液運搬車「大鵬号」は40年で70台になり、この日は総走行距離が地球170周分の682万キロになったことが報告された。

 36歳だった77年に脳梗塞で倒れて以来、妻に支えられてきた。病床からは「芳子、大好きだよ」と電話で伝え続けた。この日、芳子夫人は荼毘(だび)に付される直前、棺(ひつぎ)に手紙を入れた。前夜、胸の内を筆でしたためた。「誰にも見せていないラブレターです。今まで、書いたことはなかったんですが…。1人で散々泣いたから、今日はもう泣くまいと我慢しました」。感謝の気持ち、愛された喜びを最後に伝えた。

 国民に愛され、妻と愛し合った大鵬さんは、ついにこの世に別れを告げた。墓は生前、東京・江東区の妙久寺に用意した。自宅に近い、愛妻に近い場所で眠りにつく。

※記録と表記は当時のもの