西前頭8枚目の朝乃山(25=高砂)が、幕内で10勝一番乗りを果たし、単独トップに立った。佐田の海をわずか2秒9で寄り切ったが、取組後に物言い。朝乃山の左足が先に土俵を割っているのではないかと、約2分半もの長い協議の末、1敗を守った。阿武松審判長(元関脇益荒雄)が言い間違え、場内騒然のハプニングがありながらも、平幕力士では07年秋場所の豪栄道以来、12年ぶりに11日目での単独トップとなった。この日は出場した関脇以上が全員敗れる、1場所15日制が定着した49年夏場所以降では初の波乱となった。

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勝ったのか負けたのか。朝乃山は取組後、土俵下で落ち着かない時間を約2分半も過ごした。相撲内容は圧倒。立ち合いから右を差し、一方的に寄り切った。だが勇み足の可能性を指摘された。場内が静まる中、協議の説明が始まった。

阿武松審判長 行司軍配は朝乃山に挙がりましたが、佐田の海のかかとが先に出ているのではないかと物言いがつき、協議した結果、佐田の…。朝乃山のかかとが先に出ており、朝乃山の勝ちと決定致しました。

観衆からは「どっち?」の声やブーイングまで起きた。朝乃山も険しい表情のまま土俵下で立ち尽くしていると「佐田の海のかかとが先に出ており、朝乃山の勝ちと決定しちゃ…、いちゃ…、致しました」と、しどろもどろで訂正された。ようやく勝ち名乗りを受けると、大歓声に包まれた。

支度部屋に戻ると「俵に足がついたのが分かってパッと足を戻した」と際どい差を分けた勝因を明かした。小学4年から相撲と並行して3年間続けたハンドボールで、GKとして富山県の強化選手にも選出された反応の速さは健在。取りこぼさなかった。協議結果の説明も「どっちか分からなかった」と笑い飛ばした。

取組前まで1敗で並んでいた栃ノ心、鶴竜が相次いで敗れ、単独トップに立った。師匠の高砂親方(元大関朝潮)は「タイは干物を用意しているよ」と冗談で返すが、優勝の際に部屋が用意する縁起物の名称も飛び出した。名門高砂部屋にとって、優勝となれば元横綱朝青龍が最後に制した10年初場所以来9年ぶり。それでも当の本人は「余計なことは考えず、いかに自分の相撲を取れるか。明日がカベ」と玉鷲戦だけを見据えた。来場所は一気に令和初の新三役の可能性も。にわかに周辺が騒がしくなってきた。【高田文太】