今場所に進退を懸けて土俵に上がった横綱白鵬(36=宮城野)が、辛くも白星発進した。

新小結の明生との一番は、左四つがっぶりになったがすぐには勝負を決められず。土俵際に押し込まれる場面もある中、耐えて掛け投げで退けた。6場所連続休場中で、3月には右膝を手術するなど不安要素を抱える。それでも歴代最多44度の優勝を誇る横綱が、意地を見せる形で勝利をもぎ取った。

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土俵人生を懸けて土俵に上がった白鵬に悲愴(ひそう)感はなかった。取組を終えて、久しぶりに対応したオンライン取材。第一声で「いろいろな思いがある。しゃべったら今日終わりませんから。まぁ、ただいま、という感じですね」と明るい声色で今の心境について口にした。

意地で白星をつかんだ。立ち合いは右で張って、左を差した。右上手も取ってがっぷり四つ。勝負あり、と思われたが明生に粘られた。まわしを引きつけられて土俵際へ後退。何とかこらえて難を逃れたが、再び土俵際へ。明生に右の外掛けをくらったが、白鵬も必死の掛け投げで対抗。先に落ちたのは明生だった。紙一重の一番となったが「(明生は)重さがあったし外掛けにいくあたりにうまさがあった。その辺は経験とうまさで上回った感じ」と振り返るなど、横綱としての余裕を見せた。

春場所を途中休場した3月中旬、右膝の軟骨が完全にはがれた状態だったため手術に踏み切った。手術後はつえを使い、ギプスを装着しての生活が続き、生活に支障なく歩けるようになるのに約1カ月かかった。その間、トレーニング量をセーブ。手術を執刀した主治医の杉本和隆氏(苑田会人工関節センター病院長)は「彼の辞書に『やらない』という言葉はない。だから手綱を引っ張って、やらせないようにするのが僕の仕事だった」。管理が必要なほど、白鵬の気持ちは前を向いていたという。

周囲からは、いつもと変わらない横綱に見えている。弟弟子の石浦は「もし自分ならもっと焦っていろいろやると思う。でもすごく落ち着いている」と口にする。入念な基礎運動に四股やすり足。稽古場では、いつも通りの光景が広がっている。笑顔も見せれば、厳しい表情も見せる。特別な緊張感を漂わせずに、どっしりと構えている。

オンライン取材の最後。勝った時に見せた歯を食いしばるような表情について問われると「それは千秋楽に言います。以上です」と言い、会場を後にした。残り14日間で横綱の威厳を示す。【佐々木隆史】

◆白鵬のここ最近の動向 優勝は昨年春場所が最後。新型コロナウイルス感染拡大の影響により中止となった翌夏場所をへて、7月場所は初日から10連勝も、右膝半月板を損傷するなどして13日目から途中休場した。負傷箇所が治らず秋場所、11月場所は全休。11月場所後に開催された横綱審議委員会の定例会では「引退勧告」に次いで重い「注意」の決議が下され、1月の初場所は場所前に新型コロナに感染して休場。春場所は出場するも、再び右膝を負傷して途中休場して右膝を手術した。夏場所を全休し、6場所連続休場中だ。