東十両筆頭の朝乃山(29=高砂)が、史上初めて十両以下の土俵で実現した、大関経験者対決を制して4勝1敗とした。

大関への昇進も陥落も、自身より一足早かった35歳の栃ノ心を寄り切り。前日の逸ノ城戦で喫した今場所初黒星を引きずらなかった。大関昇進前、巡業などで稽古をつけてもらった栃ノ心への恩返し星で、来場所の再入幕と、2場所連続十両優勝への勢いを加速させる。

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特別な相手に完勝した。朝乃山は立ち合いすぐに左上手を引き、右の差し手争いも制した。前日の逸ノ城戦では、上手が切れて逆転負けした土俵際も、腰を落として隙を与えなかった。栃ノ心が観念したように土俵を割って4勝目。2日連続の幕内優勝経験者対決となったが、連敗はしなかった。「まだまだ自分の右四つは下手くそですけど、今があるのは栃ノ心関のおかげ」。感謝を口にした。

大関昇進前、同じ右四つの栃ノ心には、何度も稽古をつけてもらった。当時、右四つといえば横綱白鵬が君臨していたが、番付も年齢も差があり、声は掛けづらかった。左四つ、突き、押しの力士が多い中、巡業などでいつも胸を出してくれたのが栃ノ心。怪力でならした当時の大関に、両まわしを引きつけての力比べは完敗してばかり。だが右四つの型を、身をもって学んだ。対戦前は決まって「恩返ししたい」と気持ちが入り、これで対戦成績は6勝2敗。この日の2年ぶりの対戦も気力十分だった。

新型コロナ対策のガイドライン違反で6場所出場停止の時から、今も変わらず部屋で最も番付が下の力士とともに、早朝から稽古場に降りている。前日は敗れたが「落ち込んでいる暇はない」。栃ノ心との対戦で、改めて初心に返った朝乃山が、白星を追い求めていく。【高田文太】