先場所を両膝半月板損傷で全休した大関貴景勝(27=常盤山)が、復活を印象づける逆転優勝を飾った。単独トップの前頭熱海富士が、先に敗れて4敗に後退して迎えた本割は、4敗で並んでいた関脇大栄翔を送り出した。4敗だった高安、北青鵬が敗れ、優勝決定戦は熱海富士との一騎打ち。その決定戦を、はたき込みで制して4場所ぶり4度目の賜杯を手にした。かど番大関の優勝は7年ぶり9人目。全休明けの大関の優勝は10年ぶり2人目となった。

最善策を選んだ末に、つかんだ白星だった。優勝決定戦。貴景勝は立ち合いで左に動いた。前掛かりになっていた21歳の新鋭を、あっさりとはたき込んだ。激しい攻防を期待した場内に、微妙な空気が流れる。ただ、熱海富士よりも、貴景勝の方が先に、押しつぶされそうな重圧と戦っていた。相手は幕内2場所目の東前頭15枚目。「番付的に『負けるもんか』と思って戦った。絶対に負けられない強い気持ち。右差しを徹底して封じようと、ああいう形になるとは思わなかった」。勝利に徹した。

初日は黒星発進だった。前頭北勝富士に同体取り直しの末に敗れ、かど番脱出を危ぶむ声もあった。だが2度の5連勝などで難なくかど番を脱出。「大関は三賞もない。優勝か、それ以外」。目標は優勝しかないと言い続けた。

表彰式を終えた支度部屋でつぶやいた。「うれしいですよ。人生懸けてやっているから。3、5、7月はきつかった」。初場所で優勝し、出身の兵庫に近い大阪での綱とりの春場所は、けがで途中休場。「完治していなかった」5月は勝ち越すのがやっと。7月は、場所前に1度も相撲を取る稽古を行えない中、出場も考えたが師匠の常盤山親方(元小結隆三杉)に止められた。同時に「いい治療を勧めてもらって、紹介してもらった。親方のおかげ」と、師匠に感謝した。

18年10月に入門時の師匠だった、元横綱の貴乃花親方が退職した。貴景勝ら行き場を失った所属力士を、丸ごと引き取ってもらった。感謝の思いはずっとある。一昨年3月、師匠の還暦の誕生日には肩掛けバッグをプレゼント。常盤山親方は「どこかは言えないけど高級ブランド。高級すぎて、なかなか使えなかった」と、うれしそうに明かした。強行出場を止められた先場所を含め、常に道を正してくれたのは現師匠だった。

次は九州場所(11月12日初日、福岡国際センター)。14年11月に「夢を見て相撲界に飛び込んだ」思い出の場所。「もう1回、横綱の夢に向かって」。現時点で来場所は正式な綱とりではないが、ハイレベルな優勝なら異論は出ない可能性が高い。師匠への最後の恩返しへ、次の場所を見据えていた。【高田文太】