東前頭15枚目の熱海富士(21=伊勢ケ浜)が、あと1歩のところで賜杯を逃した。本割で朝乃山に寄り切られて4敗に後退。大関貴景勝に並ばれると、優勝決定戦では貴景勝の変化にバランスを崩し、はたき込みで敗れた。大一番で痛恨の2連敗を喫し、初土俵から所要18場所という史上最速優勝は幻となった。それでも、幕内2場所目を11勝4敗という好成績を収めて敢闘賞を獲得。21歳の新鋭は十分な存在感を発揮し、将来への期待を抱かせた。

初優勝を逃した熱海富士は、目を赤らめて花道を引き揚げた。ふがいない自分への怒りを隠せず、支度部屋に向かう通路で「アーー」と怒気を交えた大声を張り上げた。13日目に敗れた大関貴景勝にまたしても土を付けられ「稽古が足りないですね。もっと稽古っす」と言葉を絞り出した。

単独首位で千秋楽を迎えたが、本割で朝乃山に敗れて4敗に後退。その後、大栄翔を下した貴景勝に4敗で並ばれ、優勝決定戦に持ち込まれた。相手は過去5度の優勝決定戦の経験があり、出場力士の中で番付最高位。向かっていく気持ちで前に突っ込んだが、立ち合い変化で左に動かれてバランスを崩した。注文相撲は勝者に批判が生まれやすい傾向もあるが「出足が速かったら対応できた。自分が悪いっす」と潔く負けを認めた。

新入幕として臨んだ昨年11月の九州場所はわずか4勝だったことを考えると、幕内2場所目で11勝4敗の敢闘賞受賞は大きな飛躍。横綱照ノ富士不在で序盤から新大関豊昇龍が苦戦した中、快進撃を続けた。終盤戦では単独トップに立つなど、初土俵から3年たらずの21歳が場所を盛り上げる立役者になった。

「アマチュア時代の実績を考えると、自分はトップクラスではない」。強くなりたい一心で厳しい稽古で知られ、照ノ富士の所属する伊勢ケ浜部屋に入門。多い時は1日60番以上相撲を取り、圧力をかけて前に出る相撲を磨いた。故郷静岡・熱海市のしこ名をつける。地元で応援する母や妹、お世話になっている人たちの期待にいち早く応えたい一心だった。

喜怒哀楽を素直に表現する姿から、相撲関係者の間で「令和の高見盛」と人気も高い。惜しくも優勝を逃したが、まだ21歳。この日会場に駆けつけた家族に賜杯を抱く姿を見せることはできなかったが、下を向くことはない。「相撲人生は長いので、もっと強くなりたい」。敗戦を糧にさらなる成長を誓った。【平山連】