一年納めの九州場所が始まります。

区切りの場所ではありますが、現役時代に「1年最後」という感覚はなかったです。本場所は2カ月に1回あるし「最後」という感覚は引退の時しかなかった。ただ、こうして評論する立場になると、九州場所は相撲人気という観点から重要な場所に感じます。年間通じて満員御礼の盛況ですが、果たして最後の福岡でもファンに連日、詰めかけてもらえるのか。相撲にお金を落とす価値があるのか、最も厳しく見られるのが九州場所です。相撲人気のバロメーターとも言えます。いい相撲を取っているな、それなら見に行こう。そう思わせる熱戦に期待しています。

土俵の注目は何と言っても貴景勝の綱とりです。報道を見る限り、協会関係者から「綱とり」の言葉が出ないように慎重です。やはり先場所、11勝4敗というレベルの低い数字と、熱海富士との優勝決定戦で見せた注文相撲がそうさせているのでしょう。これは私個人の見解ですが15戦全勝なら文句なし、最低ラインで14勝1敗。厳しく言えば13勝2敗の優勝なら見送られても仕方ないと思います。なりふり構わず、とにかく勝ち続けることです。

貴景勝も含め3人の大関陣には、関脇以下との実力差を示してほしい。現状は平幕の上位を含めて、どんぐりの背比べ。番付の意味がなくなるし先輩大関に示しがつきません。格が違うんだ、という相撲で場所を引っ張ってほしい。その次期大関を目指す大栄翔、若元春にも期待します。

平幕以下では熱海富士に注目します。秋場所の優勝決定戦は大関の変化で敗れましたが、あの負けをどう分析して克服したのか。あの相撲は勝った貴景勝に批判が集まりましたが、あれだけ頭を下げ肩に力が入った立ち合いをすれば、相手が誰でも変化します。そこは経験の差が出たのでしょうが、あの負けを糧に自信をつけて頑張れる熱海富士の相撲も楽しみです。

ひそかに注目しているのが十両2場所目の大の里です。四つ相撲という自分の型を出し切らずに、突き押しで攻めているのは慎重に取っているということでしょう。四つ相撲で変な負け方をしたくないという気持ちもあるでしょう。裏を返せば、この位置では自分の力が相手より上という自信があるからだと思います。そこを対戦相手も考えてほしい。研究して死に物狂いで向かっていって、大の里をその気にさせれば、お互いに力がつく。まわしを取った大の里の相撲が見られるだろうし、切磋琢磨(せっさたくま)すれば全体の底上げにもなる。十両の土俵からも目が離せません。

最後に最近、メディアで目にして気になることがあります。あの双葉山関の年収が今の金額に換算すれば3000万円だったとか。時代背景が違うかもしれませんが、これって今の横綱と、さほど変わらないんじゃないですか。サラリーマンの給料が30年、変わらないと報道されているのと同じです。お金の話をするといやらしい、と思われるかもしれませんが、このまま20年もすると入門者がいなくなるんじゃないかと心配になってきます。夢を売るのがスポーツ、という認識は世界基準でしょう。相撲は日本のメジャーリーグ。そこは真剣に考えなくてはいけないと思います。(日刊スポーツ評論家)