一年納めの九州場所を振り返った時、まず思ったのは「ようやく大関陣が落ち着いてきたな」ということです。

初場所から貴景勝の一人大関が続き、名古屋場所で霧島、秋場所で豊昇龍と新大関が誕生。この2人が大関として土俵になじんできた今場所は霧島が13勝2敗で優勝、豊昇龍も「大関の勝ち越し」と言われる10勝をクリアしました。9勝の貴景勝も場所前から注目を一身に浴びる中、頑張ったと思います。今年1年を通じても6年ぶりに平幕優勝が出なかったようですね。横綱は今場所も不在でしたが、上位が落ち着いて相撲ファンもホッとしたのではないでしょうか。初優勝力士が出るのも面白いけど、ここは強い人を求めたいと思います。

その大関を狙える関脇陣も含め、ようやく主役級の顔がそろいました。でも、まだ「主役」ではありません。“級”が取れる1番手に名乗りを上げたのが霧島です。ケガで途中から出場した新大関の名古屋場所は心配しました。本当のプロは、平気で命という名のリミッターを外せる人たちの集団です。そうして命を懸けて戦っているけど、ケガや病気で本当に命、力士生命が絶たれるのは見たくありません。そんな闘いとも霧島は向き合ってきたと思います。ケガを抱えても工夫したトレーニング方法を見つけ、自信を積み重ねて優勝という結果に結び付けました。

新年は綱とりです。昇進に苦労した先輩横綱から言わせてもらえれば、時間をかけずこのチャンスで一気に決めた方がいいです。何回も綱とりにチャレンジすると、もう体はボロボロになり命を削られます。横綱を務めるその後の土俵人生を考えれば早く決めた方がいい。今の霧島には、それだけの力があります。攻めないで相手を見ながら取るのが悪い時の霧島ですが、今場所のように攻めながら相手を見て取れる相撲なら大丈夫です。横綱は2人は欲しい。1人横綱が2年も続いている現状を霧島に打破してほしいですね。

来年に話を向けると、豊昇龍にもチャンスはあり、大関昇進のチャンスも現在の役力士以外に熱海富士が加わるでしょうし豪ノ山、大の里、伯桜鵬らも有望です。先ほど横綱の話をしましたが、大関昇進もあっという間に上がらないとダメです。魅力的な名三役も、たくさん見てきましたが横綱、大関は最低でも2人ずつ、というのが理想なので続いてほしいです。

土俵以外に目を向けると今年は年90日の本場所中、87日で満員御礼が出たようですね。それはそれで協会運営としては良いことでしょう。でも私は危機感を感じています。「3年先の稽古」という言葉がありますが「3年先の経営」を真剣に考えてもらいたいと思います。30年前は1000人近かった力士数が、600人を切ろうかというのが現状です。10年後、20年後も入門者が絶えずレベルも下がらず盛況が続くかどうかは、今いる親方衆の肩に掛かっていると思います。国技としての誇りを守り続けるためにも、OBとして奮闘を期待しています。

最後に独断で選ぶ九州場所の三賞ですが、熱海富士には全部あげたいと思います。大きな体で見落とされがちですが、実は技能も高いんです。他に敢闘賞には一山本。公務員の職を捨てて飛び込みジャパニーズドリームをつかみました。技能賞は翠富士にあげます。では相撲ファンの皆さま、少し早いごあいさつになりますが、ご健康で良いお年をお迎え下さい。新年もよろしくお願い致します。(日刊スポーツ評論家)