全国各地の匠(たくみ)たちが、相撲界を支えている。日常生活で見慣れない数々のアイテムは、土俵に上がる力士たちにとって必要不可欠なものばかりだ。春場所(10日初日、エディオンアリーナ大阪)を前に、職人たちの思いを伝える。3回目は力士の髪を整える際に用いるびん付け油。

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バニラのような甘い香りが五感を刺激した。お相撲さんとすれ違った時に感じるにおいの正体は、東京・江戸川区の島田商店が製造する「オーミすき油」(税込み2750円)だ。相撲界ではびん付け油として親しまれ、この分野では家族経営で行う同社が一手に引き受けている。香料ばかりに注目が集まるが、「油こそが最も大事なのは変わらない」と2代目の島田陽次さん(51)が言い切る。

日本髪を結う時に使う整髪油は「びん付け油」「中ねり」「すき油」と硬さによって3種類に分かれ、力士の髪に用いられるのは、実は「びん付け油」ではなく、最も柔らかい「すき油」。工程は全て手作業。モクロウやひまし油を火にかけ、途中から香料も加えて、年季の入った木の棒でじっくりと練り混ぜていく。「これが油の良しあしを分ける」と細心の注意を払いながら行う。完成した油も夏用と冬用とで出来上がりを分けており、硬さが若干異なるものが提供される。

個々の床山の要望に応える努力も忘れない。「時津風部屋で提供する油は硬さよりも粘りを強調したり、玉ノ井部屋の油には通常の品より少し柔らかいもので提供しています」。力士のまげが美しく結えることなら、使う人たちが慣れ親しんだ品を提供する。できる努力は惜しまない。

不安なことは、新弟子数の減少に歯止めがかからない状況だ。力士全体の数が少なくなることでびん付け油の供給減に追いこまれる。後継者問題も今後考えなくてはならない。「20年後、30年後はどうやって残していくのか考えなくてはなりません」。国技を支える職人の真剣な訴えが胸に響いた。【平山連】

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