全国各地の匠(たくみ)たちが、相撲界を支えている。

日常生活で見慣れない数々のアイテムは、土俵に上がる力士たちにとって必要不可欠なものばかりだ。春場所(10日初日、エディオンアリーナ大阪)を前に、職人たちの思いを伝える。2回目は力士のまげに使用する元結(もとゆい)。

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「元結には未来がある」。長野・飯田市で現役の職人として活動する原豊さん(44)はそう力強く訴えた。「衰退してしまうかもしれないと心配される方もいますが、僕にとってはむしろ逆です。大相撲に使われているという時点で知名度が高く、外国の方にとっては力士たちの頭に付いている白いひもと言えば分かりやすい。これは世界を目指せますよ」と目を輝かせた。

元結は力士たちのまげを結うために紙をよって作ったひものことで、日本相撲協会に納められる多くが長野・飯田産だ。同市内の高台に設置された作業場へ訪れると、天日干しの真っ最中だった。和紙ひもが地面と水平となってピンと張られた間を何度も往復しながら、原さんはのりづけ作業に追われていた。「天候や季節によって違う。本当に奥が深いんです」と力説した。

多くの伝統工芸にとって切っても切り離せない共通の悩みが、次世代へどう受け継ぐかだ。飯田元結も同じだった。かつては存続の危機すらささやかれていたが、地元和紙の保存会に関わっていた原さんが4年前に名乗り出たことで関係者たちの不安が解消された。受け継いだのは温情からではない。いつか地元に根付く「ひさかた和紙」を使って独自の元結を作ってみたい。そんな夢をかなえるため、90代の師匠へ弟子入りした。

1人立ちを果たした今も仕事には新鮮さを覚える連続だ。「マンネリがないので、常に考えてやることが面白い。何より僕は紙が好き。紙の特性と向き合うのが楽しくてしょうがない」。国技を支える一端を担える喜びを心の底からかみしめていた。【平山連】

◆飯田と元結 起源は江戸時代の17世紀後半から。落語の「文七元結」で登場する桜井文七による販路拡大をきっかけに知名度が向上し、「白くて、細くて、丈夫」との高い評価を受けた。明治時代の断髪令を皮切りに需要低下とともに担い手が激減し、技術がそのまま生かせる水引(祝儀袋などに用いられる飾り)へと地場産業が移った。原さんを含めて全国で現在活動する元結職人は2人。

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