大相撲の第64代横綱を務めた米国ハワイ出身の曙太郎さんが心不全により亡くなったことが11日、分かった。54歳だった。同期入門の若貴兄弟としのぎを削り、2人より先に横綱昇進。かたき役になり膝の故障になきながら、長身を生かした突き押し相撲で11度の幕内優勝を遂げた。現役引退後は総合格闘家としても活躍。最近は病状悪化が伝えられており、4月に入って容体が急変した。

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酸いも甘いもかみ分けた、ちゃんこの染みた横綱だった。横綱貴乃花を優勝決定戦で倒した1997年夏場所。若貴人気の絶頂期で、両ひざ手術などに苦しんだ末につかんだ2年2カ月ぶりの優勝だった。支度部屋では「イエーイ」と陽気に振る舞ったが、優勝インタビューでしみじみ「感無量です」。失礼ながら、ハワイ出身の力士とは思えない言葉に驚いた。「オレは横綱だよ」。言葉もなかった。

若手との稽古にも熱心だった。「カトちゃん(高見盛)を育てるのがオレの仕事」と積極的に胸を出した。「脇が甘い」「足が出てない」だけでなく「差したら(腕を)返す」「まわしは小指から」など豪快な突き押し横綱とは思えないほどこまかく、実践的な指導だった。力士が10人にも満たない部屋で潮丸、高見盛、大喜と次々関取が誕生したのは曙さんのおかげだった。

18年3月に病室の曙さんを見舞った。心臓の手術を終えてリハビリ中。車いす姿を見て、どう言葉をかけようと迷っていたが「また悪いこと書きにきたんだろ」とムードをやわらげてくれた。人の気持ちの分かる、気遣いは横綱時代と変わらなかった。桜の季節。病室を出るときに聞いた「春は曙だよ」の声が思い出される。【元大相撲担当・飯田玄】