大相撲で史上初の外国出身横綱となった曙太郎さんが今月上旬、都内の病院で心不全のため54歳で亡くなったことが発表されて一夜明けた12日、現役力士らが故人をしのんだ。埼玉・川越市で行われた春巡業に参加した小結阿炎(29=錣山)は、師匠錣山親方(元小結豊真将)に「曙になれ」と厳命されていたことを告白。約3年前から故人の生前の映像を研究、取り口を実践していた。

曙さんの急逝に、阿炎の表情は神妙だった。訃報に接し、巡業先の支度部屋で「ショックです。関わったことはないけど、好きな力士であり、目標の方だったので。3年ぐらい前に一からやり直すと決めた時に、錣山親方から『曙になれ』と言われ、映像を見て研究してきた」と明かした。

それまでは昨年末に亡くなった、先代師匠の元関脇寺尾から伝授された、スピード感あふれる取り口、回転の速い突っ張りが持ち味だった。そこに阿炎の187センチの長身とリーチの長さに目を付けた、当時部屋付き親方だった現師匠から、曙さんの取り口を参考にするよう伝えられた。「足の運び方、手の出し方を参考にして、力が伝わるようになった。あと曙さんは右四つもあるので、自分もできるように目指している」。この日の関脇若元春との割も右四つからの上手投げで勝ち、好感触を得た形だ。

いくらリーチがあっても曙さんのような、1発の突っ張りの重みまでは再現できない。故人の取り口を実践できるのも、地道なトレーニングの成果。錣山親方は「ここ数年で目に見えて体重が増えた。本人の意識が高い証拠」と語ったことがあった。阿炎も「自分の体重(160キロ)は先代と曙さんのほぼ中間。先代の相撲の良さも残しつつ、曙さんの1発の重みが加われば最強」と力説。昭和、平成の名力士の良さを、阿炎が令和で体現する決意だ。

曙さんの現役時代の貴乃花らとの熱戦の映像を見て「やっぱり気迫も顔つきもすごいから、会場も盛り上がる」と刺激も受けた。この日は出身の埼玉県での巡業で、大きな拍手で迎えられた。多くのファンに愛された、曙さんに少しずつ近づいていく。【高田文太】