「インディペンデンス・デイ」(96年)の脚本を担当したディーン・デブリンさんは、6歳の娘から今回の初監督作品のヒントをもらったという。異常気象の話をしているときに娘が発した「どうして悪いところを直す機械が作れないの?」という素朴な質問がきっかけとなり、アイデアが雪だるまのように膨らんだそうだ。

 人工衛星のネットワークを利用して、気候をコントロールするシステムが完成した近未来で、致命的な障害が起きたら、あるいはシステムを悪用する権力者が出てきたら…。6歳の素朴な疑問は、地球規模のディザスター映画に権力中枢の暗闘を加えたユニークな作品に結実した。

 「ジオストーム」(19日公開)には、往年の怪獣映画をほうふつとさせるワクワク感がある。昨年春公開の「キングコング 髑髏島の巨神」に似た匂いと言っていいだろうし、超自然現象にリアルな政治システムを絡めた構図は一昨年の「シンゴジラ」につながるところがある。

 気象コントロール衛星が突如暴走を始め、各地に大災害が発生する。南米リオに寒波が押し寄せ、中東ドバイは大洪水、香港には熱波で地割れが…。緊急事態にこのシステムの開発者が呼び戻される。直情型で天才肌の開発主任は、コントロール衛星の主導権を巡る政治ゲームのとばっちりで解任されていたのだ。

 このジェイクを演じるのが「300」(07年)のジェラルド・バトラーで、いかつい外見が、度重なる困難をものともしないこの男のタフさに説得力を生む。

 彼を呼び戻すのが、その弟で政府職員のマックスだ。「ブーリン家の姉妹」(08年)などで繊細な演技を見せたジム・スタージェスが、組織を泳ぐ常識人を印象付け、兄とは好対照となる。そして、その恋人で大統領警護官のサラをオーストラリア出身のアビー・コーニッシュが演じている。

 交際が発覚すればどちらかがホワイトハウスを辞めなければいけない決まりがあるのだが、恋人の2人はそんなスリルを楽しんでいるフシがある。常識人のマックスにも実は大胆なところがあり、後に政権内部の暗闘に踏み込んでいくだけの度胸があるという伏線になっている。

 大統領補佐官として実権を握るレナードにはエド・ハリス。えらの張った顔に年輪を刻み、内心の正邪を読ませない。貫禄だ。練られた脚本に、キャストも見事で、ディザスター映画というどこかB級の響きのある作品を人間ドラマの重みの方につなぎ留めている。

 中盤からは衛星暴走の裏に組織的な陰謀がちらつき始め、異常気象と政治的暗闘の両輪で時計の針の進みが早くなる。

 おなじみの演技巧者がそろった中で、アクション面を引き受けているのがアビー・コーニッシュだ。異変を見逃さない大きな目が「24」のキーファー・サザーランドに似ていて、動きにもそれらしい迫力がある。実はこの人のことをほとんど知らなかったこともあり、キーファーと血縁があるのではないかと思いながらずっと見ていた。

 スケールの大きさ、すっきりとした結末。タイトルのイメージの裏にもうひとつの「おいしさ」がある上質の娯楽作品だ。【相原斎】

「ジオストーム」の1場面 (C)2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., SKYDANCE PRODUCTIONS, LLC AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC
「ジオストーム」の1場面 (C)2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., SKYDANCE PRODUCTIONS, LLC AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC