ピンキーとキラーズの活動期間は69年から3年間。ピンキーこと今陽子はデビュー時17歳で、シルクハットのおじさんたちを従える姿は、当時中学生の私に強烈な印象を残している。

劇中では、ほんの少しの下ぶくれ顔がピンキーをほうふつとさせるのん(26)がこれを模して「恋の季節」を歌う。テレビのカラー放送が始まった頃のような多めの色使い。どっしりとしたスタンドマイク…それだけでちょっとうれしくなった。

「星屑の町」(6日公開)は、「昭和歌謡」を題材に25年間上演が続いている同名舞台の映画化だ。

放送作家の水谷龍二さんが書き下ろしたこの作品は、売れないムード歌謡グループ「山田修とハローナイツ」が巡業先で巻き起こす笑いと人情の物語だ。大平サブロー、ラサール石井、小宮孝泰、渡辺哲、でんでん、有薗芳記、菅原大吉-初演以来の鉄板のレギュラー陣がヒロインにのんを迎えたのが映画版だ。

リーダー山田修(小宮)の故郷、東北の田舎町での「凱旋(がいせん)公演」を巡り、ボーカル(太平)の独立騒動、歌手を夢みる娘(のん)の参入などが絡んですったもんだが繰り広げられる。グループと旧知の歌姫(戸田恵子)や村じゅうが恐れるこわもて老人(柄本明)も登場し、往年の人情喜劇をほうふつとさせる要素が過不足なく詰まっている。

舞台が当たった理由について、ラサール石井は「当時の小劇場は若い人たちが音楽を鳴らしてぴょんぴょんはね回るようなのが多くて、おじさんたちが日常的な演技をするっていうのが逆に画期的だったんですね。劇場から遠ざかっていた年配の人たちも『これなら見られる』と。客席には文字通り老若男女がそろいました」と振り返っている。

その意味ではスーパーヒーローやコミック原作がランク上位を占める現在の映画興行でも画期的な作品かもしれない。

「恋の季節」以外にも「居酒屋」「宗右衛門町ブルース」「新宿の女」「中之島ブルース」…と名曲が披露され、昭和歌謡の魅力を改めて実感できる。

近年はアナログ盤の魅力が再認識されるようになったが、舞台が初演されたのは平成になったばかりの頃。ラサールは「昭和歌謡には『古い』というイメージしかなかった。もういいや、という感じです。だから年々見直されて、むしろ世間がこの作品に追いついてきたような気がする」と振り返る。

25年間同じ役を演じ続けていると、メンバーにもいろいろある。「最初は髪の毛がけっこうあったでんでんさんがだんだん薄くなってきたんですけど、プロペシア(育毛薬)を使ったら、また生えてきた。そこで劇中でも『プロペシアを使ったんだ』というセリフを入れたんですよ」とラサールは笑う。

役柄と本人の境目が見えないくらいになっているレギュラー陣とおっとりとした外見とは裏腹に「憑依(ひょうい)型女優」(ラサール)ののん。杉山泰一監督の早撮りも加わって、撮影は異常なハイペースで進んだという。

さらにはメインキャストの1人、小宮が舞台稽古中で午前11時には現場を離れたというから、朝7時から撮影を始めても実質1日4時間。期間2週間で計50時間あまりで撮りあげたことになる。

そんなサクサク感が作品をテンポアップ。良い意味で舞台を引きずった「生」の味わいがある。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)