兵庫県立東播磨高校の演劇部には正規部員が4人しかいなかったという。3年前、彼らの手によって上演され、全国高校演劇大会で最優秀賞を獲得したのが「アルプススタンドのはしの方」だ。

その年には劇団「献身」の奥村徹也氏の演出で東京・浅草九劇で上演され、6月19日からその映画化(城定秀夫監督)が公開される。

夏の風物詩となっている高校野球の熱戦ではなく、そのスタンド、しかも人もまばらな端の方にスポットを当てたのがこの作品のミソで、一見さえない4人の高校生の会話から悲喜こもごものドラマが紡ぎ出される。

ある事情で演劇大会への不参加が決まり、気落ち気味の2人の女子演劇部員、孤立気味のガリ勉女子、そして野球部を辞めてしまった元控えの投手。地方予選の1回戦を惰性で眺めていた彼らが、しだいに本音を明かし合い、それと重なるように試合の行方にも目を向けていく。

コンクリはくすみ、イスは色あせている。そんなスタジオの端にポツンと4人。閑散とした幕開けにどうなることかと思ったが、それぞれに直近に抱えた問題があり、それが絡み合い、試合の帰趨(きすう)にも重なる構成が巧みだ。いつの間にか試合に夢中になる彼ら同様にこちらも物語に引き込まれる。

浅草公演を演出した奥村氏が脚本を書き、城定監督も演劇テイストを大事にしているので、ゲームはいっさい映さない。限られたアングルが、かえって彼らの視線の先にイメージを膨らませる。

小野莉奈、西本まりん、平井亜門、中村守里のメインキャスト4人のうち3人は舞台版からの続投で、それぞれの立ち位置が堂に入っている。

スポーツ観戦はなぜ人を夢中にさせるのか。なぜ必要不可欠なものなのか。春に続き夏の高校野球選手権大会の中止も決まった今年、そんなことを考えさせる貴重な作品かもしれない。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)