浮き沈みの激しい音楽業界で、60年にわたってブランド力を維持した「モータウン」はまれな例ではないだろうか。

59年の設立以来、約10年間でビルボードのトップ10に79曲ランクイン。インディーズ・レーベルとしては異例の成功を収め、88年以降は大手グループの傘下となったが、ブランド力は色あせていない。テンプテーションズ、スプリームス、スティーヴィー・ワンダー、マーヴィン・ゲイ、ジャクソン5…黄金期を彩ったアーティストを挙げればきりがない。

「メイキング・オブ・モータウン」(9月18日公開)は、創設者のベリー・ゴーディが盟友スモーキー・ロビンソンとともに成功の裏側を解き明かすドキュメンタリーだ。

ゴーディもロビンソンももともと作り手であり、所属アーティストの気持ちに寄り添う姿勢がある。おおように彼らを後押ししながら、時に若い才能への嫉妬を口にする人間くさいところもみせる。

モータウンを「ヒット製造工場」に仕立て上げた最大のポイントは、ゴーディがかつて働いていたフォード自動車工場の組み立てラインをヒントにしたことだ。

製造、会計、販売…を分業化し、黒人音楽専門ながら、販売責任者には押しの強いイタリア人を起用した。「俺たちのバックにはマフィアがいる、という誤解を呼んだけど、それがかえってセールスにいい効果をもたらした」とゴーディは笑う。

育成部門は女性アーティストにマナーを教え、花嫁学校のような趣だ。このお行儀の良さがスプリームスの「エド・サリバン・ショー」出演につながる。「金もうけしたかっただけ」と冗談めかすが、ゴーディの柔軟な思考は人種差別の壁をしれっと乗り越えていく。

そして、幹部が顔をそろえ、次の発売曲を決める「品質管理会議」。自由な意見が飛び交い、最後に決めるのはゴーディだが、信念を口にしながら、けっこう若手のいちずな意見に流されたりする。このグダグダな感じが、モータウンの幅広さに通じている。

ブランド名のもとになった所在地の「Motor town」ことデトロイトには、評判を聞いた若い才能が集まる。10代のスティヴィー・ワンダー、幼いマイケル・ジャクソン…貴重なフィルムもふんだんに織り込まれる。マイケルのステップは当時からほぼムーン・ウオークになっていて驚かされる。

「モテ男」の印象が強かったマーヴィン・ゲイは71年のアルバム「ホワッツ・ゴーイン・オン」から一転、ベトナム戦争や貧困を題材に歌う「社会派歌手」になる。この転機目前の品質管理会議で、ゴーディは猛然と路線変更に反対するが、社会の変化に敏感な若手スタッフに押し切られてしまう。結果、モータウンは社会の大きなうねりにもフィットすることになった。

キング牧師や後のオバマ大統領も「モータウン」をたたえ、ゴーディに賛辞を贈っているが、信念というよりは彼の「グダグダな部分」がもたらした結果なのである。「創業者」としては珍しいタイプなのかもしれない。

音楽映画というよりは、異色の企業モノとして一見の価値のある作品だ。【相原斎】

(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)