建築デザイナーとして働く1人のトランスジェンダー女性を追ったドキュメンタリー映画「息子のままで、女子になる」が19日から公開される。主人公であり、LGBT就職支援活動も行っているサリー楓さん(27)に話を聞いた。

-出演の動機は

「世間にはまだ、LGBTってテレビに出てる人とか、テレビの中の人っていうイメージがあると思うんです。実は職場にもいれば学校で隣に座っているかもしれない。そういう現実を少しでも知ってほしいと思いました」

-建築家は8歳の時からの夢だったそうですね

「今以上にLGBTの人が生きにくい時代だったら、ジェンダーを捨てて建築家を目指したかもしれないですね。私にとってジェンダーは最上位ではないと思っています。もちろん女性になりたいという気持ちは強いのですが、それを人生の目的にしようとは思わない。ホルモン打って、手術もして、きれいになって私は女性になりました、となった時に、自分は何者かというのが無かったら、きっと後悔すると思います。『建築』を奪われるなら、カミングアウトしていなかった、いや出来なかったでしょうね」

-キャラを立てる必要からとは思いますが、テレビに出ているタレントさんは総じて「肉食系」に見えます。対照的に「草食系」に見えるあなたが映画の中でビューティーコンテストに出場したことには少々違和感がありました

「映画の中ではちょっとこっけいに見えているかもしれませんね(笑い)。女優でもタレントでもなくて、私はただの『働く人』なので、高根の花というか、ステージが違っていたのかもしれません。このコンテストは、はるな愛さんとか、いろんな人を知ることが出来る場なので、毎年毎年見ていたんですけど、毎回『夜の世界』の方しか出てこない。キレイ過ぎて、こんな人学校にも職場にもいないもん、と思っていました。いかにも『学生』の私が出れば、この人何してるんだろう、就職活動しているんだろうか、とか見ている人に思ってもらえる。昼の世界で生きるトランスジェンダーを知ってもらえば、少しは当事者の人たちの役に立てるのでは、と思ったんです」

-男性として大学に入り、女性として卒業することになりましたね

「トランスジェンダーってホルモンを打ったり、外見を変えるのに半年、人によっては1年くらいかかるんです。なので、休学とか休職する方も一定数いて、それをきっかけに転職や転校して、それまでの自分を知らない土地に行ったりするんです。痛みもあるし、移行中に人目に触れるのはやっぱり嫌なんです。少しずつ変わっていくのを受け入れる社会があれば一番いいんですけどね。私の場合は在学中だったので、ある程度移り変わっていくところを見られちゃってます。勇気がいることでした。もし友達と気まずくなっても、同級生であることをやめることはできないですから。最初は屋外授業の時にワンピースを着て行きました。髪はまだ短かったので、ウィッグを着け、メークをしました。目を細めれば、何とか女性に見えるレベルだったかもしれません。本当に自信がありませんでした。そんな時、先生が『これから、どんな風に呼べばいい?』と当たり前のように言ってくれたんですね。あれで救われましたね。ゼミの中に先にカミングアウトしていたゲイの人もいたので、恵まれた環境だったと思います」

-自分の性に違和感を持ったのはいつからですか

「幼稚園では男女区別なく一緒に遊ぶじゃないですか。それが小学校に上がった瞬間、男の子の競技と女の子のそれが違ったり、配られるお道具箱の色も青とピンクに分かれたりする。何で私はこっち側なんだろうって。あれが最初だったかもしれません」

-あなたとは対極にも見える、はるな愛さんの言葉に感極まってしまう終盤のシーンが印象的でした

「はるなさんは、笑いという形で少しずつ偏見を解いた先人です。リスペクトしていました。映画の中の対談で彼女から『頑張り過ぎていない?』と言われて、ほろっと栓が抜けたように。どこか独りで重いものを背負っているような気になっていたんです。頑張るのは自分だけじゃなくていい、周りと一緒に少しずつ進めて行けばいい。そう考えたら、楽になりました」

-お父さまに告白するシーンもそんな一歩ですね

「私のお父さんはLGBTに詳しいわけではないし、何となく分かっていたんだろうけど、やっぱり面と向かって言われたら、かなり対応に困っている。必死に理解しようとしてくれてるけど、やっぱり分からん、ってなってる。そんな当たり前の反応を見て、カミングアウトしようと思っている人がほんの少しでも勇気を持てれば。そうなってくれたらいいな、と」

-LGBTを取り巻く空気は変わってきたのではないでしょうか

「確かに『多様性』を否定する人はほとんどいなくなりました。ある意味絶対正義のような。だからでしょうか。個性の1つとして、自分はこうだ、ということを主張することを強いられる空気を感じます。個性って、ジェンダーって主張するものじゃなくて、呼吸をするようにそもそもあるものなので、もっと自然体でいられるのが理想ですね。(デンマークの)コペンハーゲンの建築事務所で半年間インターンをしたことがあるんです。港の建物がすごくカラフルで、それが観光名所にもなっているじゃないですか。あれは冬場の漁から帰ってきた漁師たちが、暗闇の中でも自分の家が分かるように塗り分けた結果だそうです。必要に駆られてできたから、余計な意図が働いていないから、きっとあの美しい景観になったんだと。自然にできあがった多様性の象徴のように思えるんです」

【聞き手=相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)

◆サリー楓(かえで) 1993年(平5)京都生まれ。17年慶大在学中に社会的な性別を変える。現在は建築デザイナーの他、モデル、LGBTに関する講演会も行っている。

撮影をふりかえるサリー楓さん
撮影をふりかえるサリー楓さん
(C)2021「息子のままで、女子になる」
(C)2021「息子のままで、女子になる」