一昨年に放送された「きのう何食べた?」(テレビ東京系)は、よしながふみ原作のコミックそのままに、ほんわかとした心休まるドラマだった。

料理上手で倹約家の弁護士シロさん(西島秀俊)と焼きもち焼きの美容師ケンジ(内野聖陽)のゲイカップルを巡る悲喜こもごも。

2人が住む2LDKのアパートで、シロさんが手際良く作る庶民的な料理はどれもきちんとしていて、ケンジは必ず「おいしい!」と感激の面持ちで食べる。さりげないエピソードの数々は、当たり前に過ぎてゆく日常に埋もれた「幸せ」を、改めて思い出させる。

11月3日公開の劇場版は、2人にとっては一大イベントである「京都旅行」をきっかけに、思いが微妙にすれ違う。職場の弁護士事務所ではストレートとして振る舞い、日ごろは「ゲイばれ」を恐れるシロさんがなぜか積極的。大っぴらにカップルとして振る舞うことを夢見てきたケンジにとっては幸せの時間のはずが、その真意をいぶかって素直に喜べない。

明るく振る舞うシロさんが、実はなかなか明かせない「あること」とは何なのか。ドラマでもおなじみの小日向さん(山本耕史)とジルベール(磯村勇斗)のカップルや初登場の田渕クン(SixTONES松村北斗)も絡み、物語は意外な方向に展開する。

どう見てもストレートなシロさんがケンジに向ける優しい目。ちょっと大げさなケンジのリアクションの「かわいらしさ」。西島、内野の巧者2人にゲイカップルとしての違和感はない。思いが当たり前のように伝わってくる。ドラマ以来のこの安心感があるから、素直に物語の成り行きを楽しめる。

今回の料理の目玉は、シロさんの買い物仲間、佳代子さん(田中美佐子)が伝授するする簡単レシピの「ローストビーフ」だ。

余談になるが、劇中のレシピ通りに実際に作ってみると、これが実にちゃんとした味になった。チューブでいいので、薬味としてホースラディッシュを買っておくことをお薦めする。レシピは単行本(講談社)の第9巻で紹介されているし、ネット上に何人もの方がアップされているので、お試しになるのも一興かと思う。

監督・中江和仁、脚本・安達奈緒子のコンビを始め、マキタスポーツ、田山涼成、梶芽衣子といったドラマおなじみのメンバーがそのまま出演している。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)