13歳だったソフィー・マルソーが主演した「ラ・ブーム」と続編の「-2」のリマスター版が23日から公開される。

パリに越してきたビック(マルソー)を主人公に、思春期の少女たちが交互に自宅で開催するブームと呼ばれるホームパーティーが舞台。意中の少年たちはどうしたら振り向いてくれるだろうか。思惑、ためらい…胸キュンものの先駆けと言える作品だ。

82年の初公開時は、映画記者としての駆け出し時代に当たるので、マルソーのアイドル的な人気ぶりは記憶に残っている。少し垂れ気味の愛くるしいブルーの目。本人も認めるように瞳の色を除けばやや東洋人的に見える顔立ちが人気の一因になっていたと思う。

話は脇道にそれるが、エレノア・コッポラが監督した「ボンジュール、アン」(16年)で、妙に印象に残ったのが、旅立つ妻にフランス人の知人男性が同行することを異様に心配する夫のエピソードだった。モデルはエレノア自身と夫のフランシス・フォード・コッポラ監督だから、「あいつはフランス人だ。絶対に気を許すな」などのセリフも実生活で監督がもらした言葉である。

「恋愛感情を周りのどんな人間関係より最優先する」という「フランス人感」を、イタリア系のコッポラ監督も抱いていたということが分かる。

改めて「ラ・ブーム」を見ると、そんなフランス人的なものを実感する。

ビックの父親の家族愛は本物のように見えるが、一方で香水店の女性とデートを重ね、こちらにも「真っすぐな愛情」をそそいでいる。それを知った母親もかねて好意を抱いていた男性と…。そして、そんなてん末を当たり前のように眺めている祖母も「私が愛したただ1人の男性には妻がいて、結局私は結婚できなかった」などと、自身が「愛人」だった過去を、これまたしれっと孫娘のビックに明かす。

そしてビック自身も曲折の末に相愛の少年を射止めたのはいいが、その直後、かねて憧れを抱いてきた別の少年にダンスに誘われると、その肩にアゴを乗せて至福の表情を見せる。

82年の公開時には思春期の心はそんなもの、とさらっと流したが、ラストのストップモーションとなったマルソーの遠くを見る目をまじまじと見てみれば、それはかなり怖い感じに映っている。

00年、「007 ワールド・イズ・ノット・イナフ」でボンドガールを務め、来日した当時33歳のマルソーがデビュー当時を振り返ってこんな風に語ったことが記事に残っていた。

「高い山に登ろうと1人で挑んでいくのと同じような気持ちでしたね。どうやってこの山を登っていったらいいのかと懸命に考えていました。別にアイドルスターと呼ばれることに抵抗はありませんでしたが、周囲の熱狂とは対照的に自分自身は孤独を感じていました。とても難しい時代であったことは間違いないと思います」。

13歳の決して単純とは言えない胸中が、劇中のビックの、今見れば多彩な表情に反映されていたのかもしれない。

ブルック・シールズやフィービー・ケイツら同時代にアイドル的に注目された女優たちが一線を去っていく中で、彼女だけが監督業も含め世紀をまたいで活躍を続けたゆえんに違いない。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)