韓国映画には、アルツハイマー症の元連続殺人犯を主人公にした「殺人者の記憶法」(18年)という傑作があるが、今回もこの病が作品の入り口になっている。

「復讐の記憶」(9月1日公開)の主人公は80代の老人。60年前、家族全員を理不尽な出来事で失い、その元凶となった5人への復讐(ふくしゅう)の機会をじっとうかがってきた。

年齢によって記憶が長くは続かないと悟ると、練り上げてきた殺人計画の実行を決意する。いわば認知症が連続殺人ゴーサインを出すことになる。

主演は「千の顔を持つ男」の異名で呼ばれる巧者イ・ソンミン(55)。撮影の度に4時間かけたという特殊メークで80代の顔になり、スローモーな老人アクションを披露している。後期高齢者も必死になれば、ここまではできるだろうという不思議な説得力がある。

バイト先の同僚である20代の青年とのバディのような関係が見どころの1つで、韓国版「ジョゼと虎と魚たち」(20年)のナム・シュヒョク(29)がこの青年を演じ、心ならずも「運転手」として老人の移動や逃走を手助けすることになる。

トム・クルーズが殺し屋にふんした「コラテラル」(04年)で、否応なく協力者にさせられてしまうジェイミー・フォックスの良心的なタクシー運転手のような役回りで、187センチの高身長にシュッとした細面が、ソンミンの成り切り老人との凸凹コンビを印象づける。

「ジェイソン」「フレディ」とホラー映画の名物キャラを互いのニックネームに呼び合う「格差バディ」がほほ笑ましく、そのユーモラスなやりとりは、張り詰めた進行の中で息抜きのような効果がある。

「華麗なるリベンジ」(16年)でデビューしたイ・イルヒョン監督は、カナダ=ドイツ合作「手紙は憶えている」(15年)を下敷きに「戦争の悲劇」を欧州から韓国に巧みに置き換えている。

エンタメの肝を押さえたテンポよい進行は、いつの間にか人としての本質に迫り、言葉では現しきれない戦時中の悲劇がしっかりと心に残った。【相原斎】