2月16日に全米公開されたマーベル初となる黒人がヒーローの映画「ブラックパンサー」が、予想をはるかに上回る空前の大ヒットとなっています。大ヒットするブロックバスター映画の多くは夏に公開されることが多く、アカデミー賞発表前の時期に公開された映画が、ここまで大ヒットすることは非常にまれ。公開週末の祝日を含む4日間で1億5200万ドルの興行収入を記録し、オスカーを控えて慌ただしいハリウッド関係者を驚かせることとなりました。その後も勢いは衰えず、公開4週目ですでに世界興行収入10億ドルを突破。4日に行われたアカデミー賞授賞式でも今年の賞レースとは関係のない同作を司会のジミー・キンメルが紹介するなど、社会現象になっています。

 授賞式では主役のチャドウィック・ボーズマンと主要キャストのルピタ・ニョンゴのコンビがプレゼンテーターとして登場。多様化が求められるハリウッドにおいてマイノリティーを代表する映画としてその存在感を存分に見せつけ、早くも来年のアカデミー賞候補の呼び声も出ています。黒人が主人公の映画は当たらないというハリウッドのジンクスを破り、「こんなカッコいい黒人のヒーロー映画を待っていました!」と多くのファンから歓喜の声が上がっている「ブラックパンサー」の魅力とは何なのでしょう。

 本作はワカンダという架空のアフリカの国を舞台に、若き国王とヒーローという2つの顔を持つボーズマン演じる主人公ティ・チャラが、世界を揺るがすワカンダの秘密と国を守るため、漆黒の戦闘スーツに身を包み世界の敵と戦うスーパーヒーロー映画です。ブラックパンサーのスーツにも使われている世界を破壊する特別なパワーを秘めた鉱石ヴィブラニウムを守るという使命を担うチャラをサポートするのは、最新テクノロジーを開発する天才科学者で妹のシュリ。そしてチャラの元恋人でワカンダを狙う敵を排除するため国外でスパイ活動をする戦士ナキアを演じるのがニョンゴです。他にも国に忠誠を誓う親衛隊の中でも最強の女性戦士とされる隊長を務めるダナイ・ゲリラら、主要キャストは全て黒人。スーパーマン、アイアンマン、キャプテン・アメリカ、ソー…などこれまで全て白人が主人公だったスーパーヒーロー映画からは考えられない異色のキャストです。

 ハリウッドでは近年、アカデミー賞の俳優部門の候補者が白人ばかりだったことから「白すぎるオスカー」と揶揄(やゆ)されて批判されたことからも分かるように、ヒット作に登場するキャラクターの約7割を白人が占めているという現実があります。ハリウッド映画における多様性の欠如が問題となる中、この作品はマイノリティーの多くが待ち望んでいたヒーロー像を与えてくれたといえます。さらに単にアフリカ系のヒーローが活躍するだけでなく、アフリカの小国が実はアメリカをも圧倒する最新テクノロジーの技術を持つ超文明国家であるという設定も、差別を受けてきた歴史を持つアフリカ系移民たちにとっては大きな誇りになっていることでしょう。単なるスーパーヒーロー映画としてだけでなく、アフリカの文化と最先端技術が融合した美しい世界観、音楽、衣装などあらゆる観点から楽しめる要素も満載で、過去のマーベル作品とは一線を画している点も魅力の一つとなっています。

 今年のアカデミー賞で編集賞など3冠に輝いた「ダンケルク」を手掛けたクリストファー・ノーラン監督が、今年の授賞式後に2019年のアカデミー賞では「ブラックパンサー」が作品賞にノミネートされると予想したと報じられていますが、アカデミー賞で8部門にノミネートされたノーラン監督の「ダークナイト」(08年)が果たせなかったマーベル史上初となる作品賞ノミネートという夢が現実になる可能性も十分ありそうです。昨年は女性監督による女性ヒーローが主人公の「ワンダーウーマン」が大ヒットし、女性がスーパーヒーローの新時代が幕開けしたばかりですが、今後は黒人が主人公の映画も増えていくことでしょう。映画製作の現場も、これをきっかけに多様化がさらに進むことが期待されています。

【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)