米テレビ界最高の栄誉とされる第72回エミー賞の授賞式が20日、新型コロナウイルス感染拡大の影響で史上初となるバーチャルで開催されました。

ロサンゼルスのステープルズ・センターから生中継されたリモート授賞式は、ジミー・キンメルが俳優らの等身大写真パネルが並ぶ無観客の会場から司会を担当し、各賞の候補者たちは自宅などからライブ映像を通じての参加となりました。100か所以上と中継をつなぎ、恒例のレッドカーペットもなしという異例の授賞式は、部屋着にワインなどリラックスした雰囲気の参加者やコロナ禍らしい演出やジョーク、ハプニングも満載で視聴者を大いに楽しませてくれました。そんな今年のエミー賞のハイライトをまとめてみました。

●コロナ禍らしいジョークや演出

3度目のエミー賞授賞式司会に抜擢されたキンメルは、昨年の映像を使った満席の会場と観客の大きな拍手に迎えられてステージに登場し、「ようやく皆さんの顔を見られてよかったです。リスクを冒して来てくださってありがとう。ウイルスはホストなしでは存在できません」とコロナ絡みのジョークで幕開け。

プレゼンテーターとしてステージに登場したコメディアンのジェイソン・サディキスは受賞者の名前が書かれた封筒を片手に鼻に綿棒を入れて新型コロナウイルスの検査を受け、コメディ部門の作品賞や演技部門を制した「シック・クリーク」の出演たちがカナダから一堂に会して出演したシーンでは、ソーシャルディスタンスを保って置かれたテーブルにドレスやタキシードにマスク姿とコロナ禍らしい雰囲気も。

●タキシード風防護服を着用したプレゼンテーターがトロフィーをデリバリー

例年のようにステージでプレゼンテーターがトロフィーを直接渡すことができないリモート授賞式では、受賞者たちにどのようにトロフィーを手渡すのかも注目のポイントでしたが、タキシード風の防護服を着たプレゼンテーターが自宅にトロフィーを届けるというコロナ禍ならではの方法を採用。

しかも、発表の瞬間まで誰が受賞するのかは明かされないため、候補者全員の自宅前でプレゼンテーターが待機しており、受賞者が発表されると防護服のプレゼンテーターがトロフィーを持って本人の前に登場する段取りに。そのため、受賞を逃した人が自宅前からトロフィーが去っていくのを目撃するハプニングも起きたようで、「ラミー自分探しの旅」でコメディ部門主演男優賞と監督賞にノミネートされていたラミー・ユセフは、SNSに窓越しにトロフィーを持ったプレゼンテーターが手を振っていなくなる姿を投稿して話題になりました。

エミー賞授賞式。司会のジミー・キンメル(右)と、コートニー・コックスらと画面に映し出されたジェニファー・アニストン(画面中央)(AP)
エミー賞授賞式。司会のジミー・キンメル(右)と、コートニー・コックスらと画面に映し出されたジェニファー・アニストン(画面中央)(AP)

●ジェニファー・アニストンが大活躍

プレゼンテーターとして数名がステージに登場した今年の授賞式でトップバッターを飾ったのが、ジェニファー・アニストン。コメディ部門の主演女優賞を発表するためステージに登場したものの、ソーシャルディスタンスを保つためにキンメルとの間にかなりの距離があり、互いの声が届かずに会話が成立しない場面も。

発表時には箱から取り出した受賞結果が入った封筒を、キンメルが感染予防のために消毒スプレーを吹きかけて消毒した後、さらに「ウイルスを完全に除去するため」ごみ箱に入れて火をつける一幕があり、5秒燃やして消火するというルールに従ってアニストンは消火器を手に火を消す係を担当。

その後、自身もドラマ部門主演女優賞にノミネートされているアニストンは、「自宅にいないとトロフィーがもらえないよ」というキンメルの警告で慌てて自宅に戻り、オンラインで再び登場した際にはコートニー・コックスらドラマ「フレンズ」の共演者たちと一緒のサプライズを演出。1994年から04年まで放送された「フレンズ」のキャストたちの再会を実現させたアニストンは、「私たち1994年からルームメイトなの」とジョークでファンを沸かせました。

●ブラック・ライブズ・マターと黒人俳優の活躍

ブラック・ライブズ・マター運動が世界中に広がった今年のエミー賞では、演技者部門全18の半数となる9部門を黒人俳優が独占する歴史的な快挙に。また、例年のようにカクテルドレスやタキシードといったドレスコードもなかった今年は、リミテッド・シリーズ部門の主演女優賞を受賞した「ウォッチメン」のレジーナ・キングが今年3月に警察官に射殺された黒人女性ブリオナ・テイラーさんの顔が描かれたTシャツを、ミニシリーズ部門で助演女優賞を受賞したウゾ・アドゥバも黒地に白い文字でテイラーさんの名前が描かれたTシャツを着用するなど、随所に黒人への人種差別を訴えるメッセージが色濃く反映されていました。

●トランプ大統領批判と大統領選への投票を呼びかける場に

ドラマ部門の作品賞を受賞した「サクセッション」で脚本賞に輝いた製作総指揮のジェシー・アームストロング氏は、受賞スピーチで新型コロナウイルスを巡るトランプ米大統領の対応を批判。「シッツ・クリーク」でコメディ部門の助演男優賞、脚本賞、監督賞の3冠に輝いたダニエル・レヴィは、自分たちの声を届けるために11月の大統領選で投票に行くよう呼びかけました。また、「ある家族の肖像/アイ・ノウ・ディス・マッチ・イズ・トゥルー」でリミテッド・シリーズ主演男優賞を受賞したマーク・ラファロも、分断と憎悪に満ちた国にならないために選挙で投票することが重要だと語り、「投票に行こう」と力強いメッセージを発信していました。【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)