第94回アカデミー賞の各候補が現地時間8日、発表されました。濱口竜介監督の「ドライブ・マイ・カー」が、日本映画としては史上初となる作品賞、監督賞、脚色賞、そして国際長編映画賞(旧外国語映画賞)の4部門にノミネートされたことは日本でも大きな話題となりましたが、最多となる12ノミネートを果たしたのはネットフリックスの「パワー・オブ・ザ・ドッグ」でした。続いてSF大作「Dune/デューン砂の惑星」が10部門で候補入りし、スティーブン・スピルバーグ監督の「ウエスト・サイド・ストーリー」とケネス・ブラナー監督の「ベルファスト」は次ぐ7部門に名を連ねています。

レディ・ガガ主演で世界を代表するイタリアのファッションブランド「グッチ」の創業者一族の一大スキャンダルを描いた「ハウス・オブ・グッチ」が、作品賞やガガの主演女優賞など主要部門でのノミネートを逃すサプライズもあった今年のノミネーションを振り返り、注目点をまとめて紹介します。

ベネディクト・カンバーバッチ(13年7月撮影)
ベネディクト・カンバーバッチ(13年7月撮影)

作品賞、監督賞など主要部門を含む最多ノミネートを果たした「パワー・オブ・ザ・ドッグ」は、俳優部門でもベネディクト・カンバーバッチの主演男優賞を筆頭にジェシー・プレモンスとコディ・スミット=マクフィーの助演男優賞Wノミネート、キルスティン・ダンストの助演女優賞と4人が候補入りしており、演技部門でも高い評価を得ています。同作は現時点で今年のアカデミー賞におけるフロントランナーであることは間違いなく、もし作品賞を受賞すればネットフリックス作品として史上初の快挙となります。また、「ピアノ・レッスン」(1993年)に続いて女性監督として史上初となる2度目の監督賞ノミネートを果たしたジェーン・カンピオン監督も、受賞すれば女性監督としては「ノマドランド」で昨年同賞に輝いたクロエ・ジャオ監督、2010年に「ハート・ロッカー」で受賞したキャスリン・ビグロー監督に続く3人目となります。

ネットフリックスからは「パワー・オブ・ザ・ドッグ」以外にも「ドント・ルック・アップ」の作品賞や「tick, tick…BOOM!:チック、チック…ブーン!」の主演男優賞(アンドリュー・ガーフィールド)など計10作品が27部門にノミネートされており、近年のストリーミング配信サービスの台頭によって今年のアカデミー賞でもネットフリックス作品の飛躍が目立っています。ネットフリックス作品を巡っては、2019年に作品賞、監督賞を含む最多10部門でノミネートを果たした「ROMA/ローマ」が監督賞、外国語映画賞、撮影賞の3冠に輝いたものの作品賞受賞を逃し、翌年も「アイリッシュマン」が同じく最多10部門に名を連ねながら無冠に終わったことは記憶に新しく、今年こそは悲願の作品賞受賞となるか注目されています。

「ドライブ・マイ・カー」の濱口竜介監督
「ドライブ・マイ・カー」の濱口竜介監督

俳優部門を巡っても、いくつかサプライズがありました。ガガがノミネートを逃した主演女優賞には、「スペンサー」で元ダイアナ妃を演じたクリステン・スチュワートが初ノミネートを果たしました。また、ガーフィールドが主演男優賞で候補入りしたことと、ジュディ・デンチが「ベルファスト」で助演女優賞にノミネートされたことも大きなサプライズとして現地メディアは伝えています。また、今年は2組の夫婦が史上初めて、同時に4部門すべてに名を連ねる珍事も起きています。主演女優賞にノミネートされたペネロペ・クルス(「パラレル・マザーズ」)と主演男優賞で候補入りしたハビエル・バルデム(愛すべき夫妻の秘密」)夫妻、「パワー・オブ・ドッグ」で助演男優賞に名を連ねたプレモンスと助演女優賞で候補入りしているダンスト夫妻の全員が受賞すれば、2組のカップルが俳優部門を独占する快挙となります。

また、監督賞を巡っても、「DUNE/デューン」のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督がノミネートを逃したことはサプライズの一つです。さらに、今年から10作品に固定されることになった(昨年までノミネート枠は5~10作品)作品賞を巡っても、興行的に大成功を収めた「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」が期待されながらノミネートを果たすことができず、「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」も歌曲、音響、視覚効果の3部門で候補入りしたものの作品賞に名を連ねることはできませんでした。それらの作品に代わって候補入りを果たした「ドライブ・マイ・カー」が、本番で韓国の「パラサイト 半地下の家族」に続いてアジア映画旋風を巻き起こすことができるか期待したいところです。授賞式は来月27日にハリウッドのドルビー劇場で開催されます。

【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)