アメリカで人工知能(AI)が雇用にもたらす影響に懸念が広がる中、ハリウッドでもAIが脚本家の仕事を奪い、俳優はAIで置き換えが可能になるとして全米脚本家組合と全米映画俳優組合がWストライキを実施。大手スタジオや動画配信企業と激しい議論を繰り広げる中、人間対AIの戦争を描いた映画「ザ・クリエーター/創造者」が先月末に公開されました。

ハリウッド版ゴジラ「GODZILLA ゴジラ」(14年)や「スター・ウォーズ」シリーズ初のスピンオフ実写映画「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」(16年)などで知られるギャレス・エドワーズ監督がメガホンを取った同作は、AIの急速な進化によって引き起こされた人類とAIが対立する遠くない近未来が舞台。人を守るはずのAIによって核爆発が起り、AIと人類が激闘するストーリーは、まさに今ハリウッドで話題のAIが人間の仕事を脅かす可能性と共通するタイムリーなオリジナル作品です。

ギャレス・エドワーズ監督(2016年12月撮影)
ギャレス・エドワーズ監督(2016年12月撮影)

人類の脅威となるAIを創り出したクリエーター(創造者)を暗殺するよう命じられた元特殊部隊の男ジョシュアが主人公の同作は、捜索中に「兵器」と呼ばれた超進化型AIの少女アルフィーと出会い、心を通わせ、守り抜こうとする姿が描かれています。主演は「TENET テネット」(20年)などで知られるジョン・デヴィッド・ワシントン、「ラスト サムライ」(03年)や「インセプション」(10年)などハリウッドでも活躍し、エドワード監督の「GODZILLA ゴジラ」にも出演している渡辺謙ら豪華キャストが集結しています。

話題性が高く、映画批評家を中心に高い評価を得ている一方、9月29日の公開から3日間の興行は1400万ドルにとどまる3位スタートとなり、ストライキの影響でキャスト陣による宣伝活動が一切できない中でオリジナル作品を公開することの難しさを露呈した形となりました。

また、全米脚本家組合がスタジオとの暫定合意に達し、148日間に及んだストが終結した数日後に公開日を迎えるというタイミングの悪さも、興行に影響を及ぼした可能性が取り沙汰されています。組合はAIの使用に一定の制限を設けて脚本家を保護することを勝ち取ったとされていますが、ハリウッドのクリエーターたちがAIを推進するスタジオの前でピケを張る中での公開は、テクノロジーの問題を脇に置いて社会を破壊し、進歩させてきた人類の未来に共感を示すことを難しくさせたのかもしれません。

今やAIは、映画や音楽などエンタメの世界だけでなく、AI技術による自動運転やお掃除ロボット、SiriやAlexaなどのバーチャルアシスタントから、AIを搭載したドローンまで人類の身近な存在となっています。そう考えると、先見の明のあるオリジナルSF映画として、「AIはリアルなのか?」「人類の敵となるのか?」観る者に壮大な想像力と、人類とAIの未来像を考えるきっかけを与えてくれることでしょう。日本では今月20日から公開予定です。

【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)