蒼井優(33)がこのほど、紀伊国屋演劇賞の個人賞、読売演劇大賞の最優秀女優賞を受賞した。昨年主演した「アンチゴーヌ」「スカイライト」の演技が高く評価された。

先日行われた紀伊国屋演劇賞の贈呈式に出席したが、そこでの蒼井のあいさつにちょっと驚いた。蒼井と言えば、蜷川幸雄演出「オセロー」でデズデモーナ、野田秀樹作・演出「南へ」などに出演し、舞台でも実績のある女優と思っていたが、蒼井は賞を受けるべきかで悩んだという。

あいさつで「信じられないです。賞を頂いていいか悩みました。まだできないこともたくさんあるし。ただ、次の舞台にはこの課題をクリアしようと、ひたすらやってきました」と切り出し、「私は映画出身で、演劇の場に立つことがホームという感じがせず、いつも緊張してしまう。けいこ場でも殻に閉じこもって、四苦八苦してきた」と舞台に立つことの悩みを打ち明けた。

確かに、これまでの受賞歴を見ると、日本アカデミー賞の最優秀女優賞、日刊スポーツ映画大賞の最優秀女優賞など、映画でのものが圧倒的に多かった。30代前半にして華麗な映画キャリアに比べれば、舞台出演はまだ少ないのかもしれない。「舞台の先輩を見ていて、すてきだなと思うのは、真っすぐ舞台に立っている。その姿があまりに格好良く、いつか私も真っすぐ舞台に、武装せず、ただ立つことができるようになりたいと思っていました。今回の受賞の対象になった舞台では、少しだけですが、真っすぐ立つことのにおいを感じることができました」。

最後には「演劇とか映像を分けず、腹をくくって舞台に立て、という意味の自分への戒めとして受賞することにしました。才能があるタイプではないので、1秒でも早く先輩の見ている風景に近づけるように、ひたすら誠実に、清潔に、まじめに進みます」と、頼もしい決意表明で締めくくった。

受賞対象となった「アンチゴーヌ」では国家権力を背負う叔父と命を懸けて対峙(たいじ)して、思いを貫く少女を演じ、「スカイライト」は2時間半ほとんど出ずっぱりで、格差社会の中で自らの生きる道を模索する女性を力強く演じていた。これまでも蒼井の舞台を見ているが、確かな成長を実感した舞台だった。それがかつて20代から30代にかけての大竹しのぶ、宮沢りえの舞台を見た時と、同じような手ごたえだった。今後、彼女の舞台を見るのが、より楽しみになった。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)