今月もこれまでに20本を超える舞台を見ましたが、その中で乃木坂46の3人が主演、出演している舞台が3本もありました。

ミュージカル「レ・ミゼラブル」の生田絵梨花、「夜は短し歩けよ乙女」の久保史緒里、「目頭を押さえた」の筒井あやめの3人です。

ひと昔前のことですが、舞台経験の少ない女性アイドルが出演した時、関係者からは「演技については大目に見てください」などと言われたものです。集客が目的での起用ということですが、今や、アイドルの舞台と言ってもばかにできません。

「レ・ミゼラブル」の生田はこれまでのコゼットから今回初めてエポニーヌに挑戦しましたが、銃弾に撃たれ、片思いの相手マリウスの腕の中で命を落とす場面で歌う「恵みの雨」がとても良かった。まったく相手にされなかったマリウスのぬくもりに初めて触れて「痛くないわ」「恵みの雨、つらくないわ」「これでいいの、安らかだわ」と息絶えるエポニーヌの姿が気高くて、無垢(むく)な美しさがあった。ミュージカル女優としてよりステップアップした印象でした。

久保が歌舞伎俳優中村壱太郎とダブル主演した「夜は短し歩けよ乙女」は、京都の大学を舞台に、先輩(壱太郎)がクラブの後輩の「黒髪の乙女」(久保)に片思いを寄せ、少しでも近づこうとする中で、さまざまな人たち、奇妙な出来事に遭遇する青春ファンタジー。実はこの舞台を見るまで、久保のことを知らなかったけれど、緋鯉(ひごい)を背負って京都の街をテクテクと歩く姿はキュートで、「黒髪の乙女」にピッタリはまっていた。乃木坂の公演以外の舞台は初出演だったそうだが、今後も注目したくなった。

筒井が主演した「目頭を押さえた」は、佳作を連発している劇作家横山拓也氏が12年に発表し、その後も再演を重ねた作品。林業が盛んな集落を舞台に、筒井は写真家を目指す高校3年生の遼を演じた。横山氏はきめの細かいせりふのやりとりの中から、登場人物の奥深い心情までを鮮やかに浮き上がらせる人間ドラマで人気ですが、筒井はたたずまいが自然で、せりふもしっかりと伝わってきた。筒井のことも知らなかったが、舞台単独初出演で、しかもまだ17歳と聞いて驚いた。6月は3人以外にも乃木坂46の6人が舞台に出演しているそうで、また彼女たちの舞台を見てみようかなと思った。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)

舞台「夜は短し歩けよ乙女」の通し稽古を前に会見する乃木坂46の久保史緒里(2021年6月撮影)
舞台「夜は短し歩けよ乙女」の通し稽古を前に会見する乃木坂46の久保史緒里(2021年6月撮影)
舞台「目頭を押さえた」の通し稽古に臨んだ筒井あやめ(右)と秋田汐梨
舞台「目頭を押さえた」の通し稽古に臨んだ筒井あやめ(右)と秋田汐梨