歴史的な舞台になるかもしれない。10日に東京・渋谷パルコ劇場で初日を迎えた吉田羊主演のシェークスピア劇「ジュリアス・シーザー」。

何が歴史的かというと、主役ブルータスを演じる吉田をはじめ、シーザー役のシルビア・グラブ、シーザーの腹心の部下アントニー役の松井玲奈、ブルータスをシーザー暗殺の陰謀に巻き込むキャシアス役の松本紀保など出演者がすべて女性という異色舞台だ。これまで蜷川幸雄演出で小栗旬主演「間違い喜劇」、北村一輝主演「恋の骨折り損」など出演者すべて男性という舞台は何度も見たけれど、今回のような本格的なオールフィメールのシェークスピア劇は初めてだった。

パンフレットに寄稿しているシェークスピア研究家によると、シェークスピアの登場人物981人中、女性はたったの155人という。シェークスピアが生きたのは16世紀と400年以上も昔とは言え、圧倒的に男性上位だった。

しかも、「ジュリアス・シーザー」は古代ローマを舞台に、権力者シーザー暗殺を巡る政治闘争劇とあって、女性役はブルータスの妻など2人だけで、セリフも多くない。そんな舞台を女性だけで演じることに、見ていて「違和感がなかったか」と聞かれたら、「まったくなかった」と即答したい。

それはなぜか。宝塚歌劇のようにかつらや衣装で男装することもなく、ブルータスをはじめとした登場人物が性別を超えた1人の人間として、舞台に生きていたからだろう。吉田演じるブルータスは、キャシアスの説得でシーザー暗殺を決意して以降、中心となって計画を実行していく。ラスト、戦いに敗れて自死に追い詰められるけれど、誰を恨むことなく「おれの心は喜びでいっぱいだ」と言い切り、最後まで仕えた少年従者を優しくいたわる姿が胸を打つ。女性が演じたことで、ブルータスの言葉の1つ1つが純粋な心情の発露として見る者にダイレクトに伝わり、自らの思想に殉じた人間の気高さがより鮮明になっていた。

今回の舞台の生みの親でもある演出の森新太郎氏は「オールフィメールで臨んだことによって、この作品の新たな魅力に出会えたような気がします」とコメントしたが、オールフィメールのシェークスピア劇がスタンダードになる時代も近いかもしれない。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)