市川中車(57)が主演する歌舞伎座昼の部「傾城反魂香」の評判がいい。

中車は父猿翁(3代目猿之助)が過去に演じた浮世又平に初めて挑み、市川猿之助が出演予定だった女房おとくを中村壱太郎が代役で務めている。明治座「不死鳥よ 波濤を越えて-平家物語異聞-」の代役で一躍脚光を浴びた中車の息子の市川團子(19)も又平の弟弟子の修理之助役で出演している。昨年12月の活動再開後、もっとも大きな役となるが、中車自身が言う「遠く憧れのお役」を懸命に演じている。

映画、ドラマで活躍していた香川照之が歌舞伎入りして市川中車を襲名したのは11年前のこと。亀治郎の4代目猿之助、息子の團子襲名と同時だった。歌舞伎の舞台では猿之助の一座での出演が多かったが、今回の猿之助の事件で取り巻く環境が一変した。猿之助の不在で、7月の歌舞伎座昼の部「菊宴月白浪」で猿之助が主演予定だった斧定九郎役を配役変更で演じることになり、宙乗りに初めて挑む。さらに8月の歌舞伎座、9月の京都南座で「新・水滸伝」にも出演する。

4カ月の連続出演となり、中車の「澤瀉屋(おもだかや)乗っ取り」なんて物騒な表現をする記事もあったけれど、そんな大それたものではないだろう。ただ、今後は「澤瀉屋」一門の中で主導的な役回りを求められるだろう。中車が歌舞伎入りしたのは、猿翁の孫である團子に「猿之助を襲名させたい」という強い思いがあった。今回の代役劇で團子の実力、将来性については多くの人が認めることになった。團子を将来の襲名に向けてしっかり導くこと、そして数多くの門弟がいる「澤瀉屋」一門の結束を守ること。それらが中車の双肩にかかっている。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)