藤井聡太七段は最年少記録を塗り替え、中学2年でプロ棋士となった。世間の目はこの「最短」に集まるが、ぎりぎりプロを目指す「最長」の攻防はどうなっているのか。この作品は、のたうち回るようなボーダーラインのせめぎ合いと心温まる奇跡を描いている。

26歳の年齢制限で1度は諦めたプロ棋士の夢を35歳の時、特例の「編入試験」でかなえた瀬川晶司五段の実話。マイペースの晶司(しょったん)は遅めの中3で養成機関の奨励会入り。年限ぎりぎりでプロ入りを逃し、傷心の27歳は将棋を捨てる。が、小学時代の将棋仲間との再会で再び駒を手にし、やがて無敵のアマ名人に。そして、プロ入りをかけたプロ棋士との特設6番勝負が始まる…。

奨励会経験のある豊田利晃監督の描写は生々しい。中学生から26歳-奨励会の内情は受験勉強が10年続くような過酷さだ。仲間でライバル。ドロドロした本音が顔をのぞかせる。

整然としたコマの動きは対照的だ。主演松田龍平は父・優作さん譲りの長い指が効果的だ。原作者指導の指さばきは美しい。友人役野田洋次郎ら個性派との呼吸も合い、終盤の奇跡にはホロリとさせられる。【相原斎】

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